コモディティ化に翻弄されるHDD

昨年(2005年)暮れも押し迫った頃、HDD(ハードディスクドライブ)製造の最大手である Seagate 社が、同業の Maxtor 社を買収するというニュースが流れた。最大手同士のこの買収劇は、いったいどのような意味があるのだろう。今日は HDD 業界の歴史を振り返りながら、今後の動向について考えてみたい。

HDDメーカ統合の歴史

HDDは、かつてはさまざまなメーカがしのぎを削っていた。それがここ10年くらいで次々に統合する方向で進んでいる。3.5インチ HDD の先陣を切ったConner 社は1996年に Seagate 社に統合(元々資本関係にあった)された。DEC(現HP)社の一部門を買収して成長していた Quantum 社も、HDD 部門を 2000年に Maxtor 社に売却した。IBM 社が HDD 部門を日立に売却したのは記憶も新しい2003年のこと。そして今回の Seagate 社による Maxtor 社の買収である。

小型製品向けの 2.5インチ以下の HDD メーカはまだ数社残っているが、出荷量の多い3.5インチ HDDを今後作ってゆくメーカは、Seagate 社、Western Digital 社、日立、富士通、Samsung 社の数少ないメーカに絞られたことになる。

HDD選択は噂と体験から

HDDメーカがまだ多かった頃、どのメーカの HDD を購入するかいつも頭を悩ませていた。ネット上では、「あるメーカの製品はとても壊れやすい」「別のメーカの製品は音がうるさいし発熱量が多い」などの噂が流れる。同一メーカでも製造時期によって出来が違うので「シリアル番号に気をつけた方がよい」という話も聞く。

また、HDD は消耗品なのでいずれは壊れる運命だが、自分で使ってみて明らかに短命だった製品が、特定のメーカに偏っていたという実体験から来る記憶もトラウマのようにまとわりつく。

このように、HDD選択にはこれまでは「メーカで選ぶ」という手が使えていたのだが、このように統合が相次ぐと、選択のよりどころに苦しむことになる。HDD は、壊れるとそれを交換するばかりではなく、その中に入っていた大切な情報も失ってしまう。非常に重要な部品なので、「はずれ」製品をつかんでしまうと、そのダメージはかなり大きい。

コモディティ化による悪影響

HDD といえば、昔はコンピュータが主戦場であったが、今では HDD レコーダに代表される情報家電に使われるようになり、様相が一変した。いまやパソコンもコモディティ化しているが、情報家電というより一般の消費者が使う製品に使われることにより、市場が拡大するとともにコスト削減も強いられることになる。パソコンならば、さすがにユーザも HDD が使われていることを意識しているが、HDD レコーダになると、録画ができる「不思議な箱」としか見ていないユーザもきっと存在するだろう。

このように、ユーザの目の前から HDD が見えなくなることにより、HDD はその機能・性能が主張しにくくなってきている。「不思議な箱」の中身は何でも良く、同じような仕様であれば安ければそれで十分、という傾向も否めない。これは別に情報家電に限ったことではなく、企業などで使う NAS (ネットワーク・アタッチド・ストレージ)でも似たような状況だ。果たして NAS を導入した企業の方で、そこに内蔵されている HDD がどこのメーカ製なのかを把握できている人はどれくらいいるだろう。

HDD は今後もユーザの目に触れることが少なくなり続けてゆくだろう。しかし、 HDD の特性(回転数、発熱量、騒音など)は、製品全体の性能や寿命に大きな影響を及ぼすことだろう。少なくとも技術者はそこにどのような HDD が使われているのかを意識し続けていきたいものだ。