コロナ禍に見る思いやりのアップデート

緊急事態宣言が解除された。この2ヶ月弱、人と人のコミュニケーションや働き方において多くの制限があったが、一方でそれに対する様々な取り組みが見られた。テレワークが以前よりも”普通の”働き方になってきたし、オンライン帰省なる概念も生まれたのも記憶に新しい。COVID-19による災禍は軽んじることはできないが、ここではこのような事態から見えてきた新たな変化の可能性に着目してみたい。

サイバー空間とフィジカル空間の境目への意識が変わった

コロナ禍でもっともフィーチャーされたのはやはりテレワークである。外出自粛要請に応えた企業で多く取り入れられ、TeamsやSkype, Zoom等のツールを用いて会議を行った方は多いことだろう。これらテレワークの環境がない場合に対しても、IPAおよびNTT東日本により「シン・テレワークシステム」が緊急構築され、公開されている。

テレワークを大規模に実施した結果、これからもテレワークでよいと判断した企業も存在している。Twitter社では在宅勤務を永続的に可能にすると発表しており、国内でもベテラン世代の75%が無駄な会議から解放されてよかったとする 調査結果が報告されている。

これまで”会社に出社して仕事する”が常識だったところ、”サイバー空間でも十分できるじゃないか”と多数の人が認識したというのは、大きな変化だったと思える。VRでサイバーオフィスを提供するサービス(Immersed等)もあるが、いまなら違和感なく利用できそうだ。

先に挙げたオンライン帰省やオンライン飲み会など、フィジカル空間が当然とされたものもサイバー空間で行われるようになっている。遠い未来から振り返ると、やはり今が変曲点だったとなるのではないだろうか。

立法から施行までの”サービスイン”は2週間以内?!

特別定額給付金の経緯からも変化の兆しを読み取ることができる。むしろすでに起こっていた変化がより明瞭になった形だろうか。特別定額給付金は、その決定から支給までに非常に時間がかかることが問題視された。給付の急務度に照らして長いという見方がもちろんあるが、人々がITサービスに持っている感覚との差異にあえて着目してみたい。

すなわち、サービスインまでの”当たり前な期間”が、現状の行政サービス等に実装されているよりも短いことが表出したのではないか。近年、マイクロサービスアーキテクチャを初めとした変化に対して迅速なIT機構を有し、2週間以内等で新規サービスを提供する企業が台頭している。これらのサービスを享受した人々は、”当たり前な期間”はすでにかなり短くなっていたのではないだろうか。

行政サービスも一つのITサービスと捉えれば、その恒常的なサービス以外についても、特別対応が必要になってからサービスインまでの期間は、これまでよりもかなり短くする必要があるのだろう。

サイバー空間における個人のアップデートが必要だ

では、期間短縮のカギはどこにあるだろうか。今回の特別定額給付金では、マイナンバーを用いてオンライン申請を正常に行った方は給付を早く受けられた。一方で、一律給付にするか収入減があった人たちに限るかといった議論や、オンライン給付でパスワードを忘れてしまった方のパスワード再取得、申請受付からの役所での突合作業には非常に時間がかかったと言われる。

ここに通底しているのは、フィジカル空間上の個人をサイバー空間上でうまく確立できなかったことだ。

政府がもつマイナンバーの情報が市中にある収入データとうまく紐付けられないこと、生体情報などの個人固有の情報がマイナンバーと紐付けられていないこと、行政内のシステム内の個人データの突き合わせに人の目が必要であることが、先に挙げた事象の背景にあるといえる。

マイナンバーの普及は今一歩だが、志向しているシステムの姿は現代・未来において不可欠なものだ。今回明るみになった”テスト結果”を有効に使って、サイバー空間における個人のアップデートを期待したい。

サイバー空間で実装される社会ルールに不可欠なピース

また、新たな社会ルールの意思決定自体や、決定からシステム実装までを短期化できる構造も必要だ。今後社会がより急激に変化するならば、立法から施行までのスパンはより短期間となることが求められる。人と人のつながりの総和が社会であると考えれば、これもまたアップデートに含まれるべきであろう。

そしてすでにその兆しはある。金融規制の分野では規制内容の機械可読化やRegTech/SupTechによる規制対応の自動化が進んでいる。また、「Society5.0」の議論では、自然言語の法律を効率よくサイバー空間で実装するための新たなガバナンスモデルの議論が深められている。
RegTech/SupTech・・・RegTechは「Regulation(規制)」と「Technology(技術)」を合わせた造語で、AI等の技術で規制対応を行うもの。規制当局が利用者となる場合SupTech (Supervisory Technology)と整理される。

個人やその間のルールである法規制がよりサイバー空間側に移ると、より利便性の高い社会になるだろう。しかしそこに絶対に欠けてはいけないピースがある。

サイバー空間を媒体にしたにせよ、社会を通じて人と人は繋がっている。 今回COVID-19の蔓延がひとまず小康状態に至ったのは、各個人が他者を思いやった一つ一つの行動の寄与が大きい。これを見るに、ともすれば過度な個人攻撃が起こることもあるサイバー空間を社会として機能させるために最も必要なのは、思いやりのアップデートなのではないか。