新型コロナウイルス対策の中、自宅でのテレワークを余儀なくされた。通勤の苦しみから解放される一方、自宅のデジタル環境が十分でなく、仕事の効率が落ちてしまった方も多いだろう。今回は、ポストコロナ時代の働き方の中で生まれる、新たなデジタル・ディバイドについて考えてみる。
テレワークで痛感する通信環境格差
テレワークを長期間行うことにより、改めて自宅のデジタル環境が整っていなかったことに、多くの人が気づかされた。長時間の作業に耐えられる椅子や机などの物理的な環境も足りなかったが、自宅に持ち帰ったノートパソコンでの長時間の作業もつらかったのではないだろうか。テレビ会議用にヘッドセットやWebカメラも必要となったが、いずれも品薄になり手に入りにくい状況であった。
テレビ会議の多用により、インターネットトラフィックも増加した。NTTコミュニケーションズのインターネット接続サービスでは、平日の昼間帯の通信量が約40%、元々トラフィックが多かった夜間帯でも約15%増えている。昼間はテレビ会議やオンライン授業、夜間はオンライン飲み会や動画視聴が積極的に行われた証だろう。家族がそれぞれにテレビ会議やオンライン授業、オンライン飲み会や動画視聴をすることで、自宅のネットワーク帯域が足りずに、音声やビデオがとぎれとぎれになったことも、多くの人が体験したのではないか。
急にテレワークを余儀なくされ、自宅の通信容量の多寡が改めてクローズアップされた。これはかつて、ADSLによるブロードバンドが流行り、携帯電話が3G(第3世代)に移行し始めた2000年頃と様子が似ている。少しでも安定した多くの通信容量を確保しようと、ISPや携帯キャリアをどこにするかに悩んでいた。現時点は歴史が繰り返されて、再び通信環境格差によるデジタル・ディバイド(ITの恩恵の多寡による経済格差)が起きている状態だ。
通信環境格差を放置すると、ビジネスでも学業でも大きな影響が出てくる。テレビ会議の音声途切れや資料提示ができないことで、説得力のある説明ができなくなる。オンライン授業でも、先生の説明がよく聞こえなかったり質問ができなくなることで、理解できないことが増えてしまうだろう。
比較的容易な通信環境格差の改善
ポストコロナ時代でもテレワークやオンライン授業が続くことを想定すると、自宅の通信環境を見直す必要が出てくる。これまでは、外出が多かった方の中には、固定のインターネット回線を持たずに、Wi-Fiルータやスマホのテザリングで過ごしていた方も多かった。今後は、自宅ライフを快適に過ごせるように、大容量のインターネット回線が欲しくなる。
戸建てであれば光回線サービスを導入すればよいが、悩ましいのはマンションの大容量化だろう。各戸まで光ケーブルで配線されていればよいが、マンション内で低速の電話線を使うVDSLの場合、どうしても帯域が頭打ちになる。また、複数の世帯で帯域を共有するケースが多いため、マンション内の他の世帯での利用が自宅の帯域を圧迫することもある。
電話線を用いた大容量化については、VDSLに代わってG.Fastと呼ばれる、より高速な通信規格を提供している事業者もある。また、ローカル5G(5G技術を使ったエリア限定の通信サービス)を用いたマンション向けサービスも始まりつつある。光ケーブルが各戸まで配線できないマンションの場合は、こうした代替手段を模索するのも良いだろう。
ポストコロナ時代の新たなデジタル・ディバイド
通信環境格差の問題が解消されると、次には再び、どのようなアプリケーションを使いこなせるかによる優劣の時代が来るだろう。テレワークや遠隔授業などの急激な普及により、テレビ会議システムも機能・性能ともに急激に進化した。そのほかのデジタルコミュニケーション手段も同様に、仕事のみならず社会生活を最適化すべく、進化してゆくだろう。
そうした中、足元ではどのようなアプリケーションを使いこなせるのかが、仕事の効率化を左右しているように思える。そしてその先には、デジタルにさらに一歩踏み出す意識が優劣を決する時代が来るのではないだろうか。
そうした意識の違いに基づくアプリ利用格差が、新たなデジタル・ディバイドを生む可能性を秘めている。ビジネスであれば、営業情報や契約情報、コミュニケーションなどをすべてクラウド上に集約できれば、最新のAI技術を用いた分析も容易だ。一方、それらの情報を従来通りの個別社内システムに格納したり、オフラインでの情報共有を続けていると、AI技術等の恩恵を受けにくくなる。意思決定プロセスや契約で判子を使い続けるのも、ビジネスのスピードアップを阻害する大きな要因となるだろう。
アプリ利用格差で落ちこぼれなために
かつてのデジタル・ディバイドは、スマホなどの普及により、一旦解消されたように感じていた。しかし今後は、自らが置かれているデジタル環境やデジタル意識の優劣により、仕事のパフォーマンスが発揮できなくなるという、アプリ利用格差という新たなデジタル・ディバイドが生まれそうだ。
アプリ利用格差で落ちこぼれないためには、今回のコロナ禍の中で知恵を絞ったように、「どうやったらデジタルで代替できるか」「なぜこれはヒトやモノに頼っているのか」などを、突き詰めて考える必要がある。例えば、契約書を作るために、メールやワークフローシステムを使ってデジタル化をしていたのに、最後に押印するためだけに出社を余儀なくされたケースは、今後は是非改めたいところだ。
ポストコロナの世界では、「やはり直接会った方がよい」「紙の方が分かりやすい」などの揺り戻しもあるだろう。しかし、持続可能な社会で成長を続けるためには、不退転の覚悟でデジタルへの移行を進めるしかない。
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