先日、社内で定期点検による停電が実施され、 それに備えて管理しているサーバ類を止める機会があった。 通常業務中には、緊急時以外には止めてメンテナンスすることも難しいので、 こういう機会や休日、夜間にまとめてメンテナンスすることになる。 このようなメンテナンスでは、 古いディスクやディスクの残り容量が少ないものから大容量のものに入れ換える、 といったディスクに関係する作業が多い。 今回は、 容量の大きさと壊れた時にしか語られないデバイスである、 ハードディスクドライブ(以下、HDDと略す)に目を向けてみよう。
ハードディスクドライブを組込んだ機器が増えている
ハードディスクドライブはデリケートなので、取り扱いが難しいという理由から、 これまでほぼコンピュータ用にしか使われていなかった。 しかし、最近は大きく変わりつつある。 iPodのように持ち歩きながらでも使える携帯機器、 ハードディスクカーナビ、 ハードディスクビデオレコーダといった、PC以外にもHDDが組込まれる ようになってきている。 実際に、システム投資額やパソコン出荷台数は横ばいにもかかわらず、 HDDの出荷台数は増えており、 なかでも一般向けの向けのディスクが増えているという調査がある。 HDDを製造している企業は世界的にも現在数社しかなく、 うち半数は日本企業であり、 その主要部品も日本企業のシェアが高く技術力が評価されている。 特に、2.5インチ以下の小型HDDは、熱、振動、ほこり、 電源の突然断といった厳しい環境下での動作保証といった、 性能が必要なため、そのほとんどが日本メーカ製である。 メモリは過当とも言える価格競争市場で乱高下が激しいのに対し、 開発スパンが長いこともあり、 ハードディスクの場合は緩やかに価格が下落していく。
熱に気をつけよう
HDDが一般向け機器でも使われることに慣れてしまい、 意外と無頓着に扱っているのではないだろうか。 ノートPCを落とすといった直接的な衝撃はディスクを壊す原因になることは、 誰もが知っている。しかし、HDDは動作温度によって、 大きく寿命が異なることはあまり認知されていない。HDDメーカである Seagate社の調査では、 動作温度が15度上昇すると寿命は約1/2になると報告されている。 レポートでは、HDDのMTBF(Mean Time Between Failure、平均故障間隔)は、 動作温度30度の場合に約20万時間となっているので、 60度でも約5万時間(約5.7年)となり、 通常範囲ではあまり問題ではないようにも思える。 しかし、平均値だけでは判断するのも危険だ。 故障の発生確率は統計的にポアソン分布に従うことが知られており、 MTBFが20万時間の場合には、1年以内に故障する確率は約4%であるのに対し、 5万時間の場合には1年以内に故障する確率は約16%、 2年以内では約30%と意外と高い。 EXCELで EXPONDIST(24*365,1/50000,TRUE)とすれば簡単に計算できる。
熱を発生するものとしては、 数十ワットも消費するGHzクラスのCPUや高回転のHDD、 冷却用のファンが付く高性能グラフィックカード、 大容量電源などいくつもある。 しかし、一般のユーザが機器内部にこもる熱を意識することは少ない。 もちろん、大手メーカー製の機器では、 熱解析や流体解析などのシミュレーションを行なった上で 排熱用ファンを追加したりケースの材質などを選択して品質を確保している。 最近のHDDにはS.M.A.R.T.という自己診断機能がついており、 ソフトウェアで温度やエラーの発生などを知ることができるので、 一度試してみるといいだろう。 もっとも冬なので高温についてはあまり神経質になる必要はない。 むしろノートパソコンを持ち歩いて結露するケースもあるようだ。
その点、組込に使われているHDDは熱などが考慮されており、 特にハードディスクカーナビはほこりや熱に加えて大きな振動もあるため、 かなりしっかりと対策がされている。
バックアップが難しい
様々なところに使われつつあるハードディスクは、 CPUの高速化と同様に大容量化が進んでいる。 いまや100Gバイト以上のディスクを持つPCは珍しくない。 ハードディスクビデオレコーダにも100GB以上のHDDが使われている。 機械部品で構成されているので確実に寿命が存在し、 熱などの環境がよくても一定の割合で壊れる。 忙しい時に壊れる、ディスクの使用量が多い時に壊れる、 バックアップをしていない時にディスクが壊れる、 リストアしたい時にはバックアップが読めない、 といった「マーフィーの法則」を実体験している者としては、 やはりバックアップを取ることをお薦めしたい。 しかし、 バックアップしておくようにとマニュアルには簡単に1行だけ書いてあっても、 実はそれほど簡単ではない。 ちなみに、不幸にも壊れた時には復旧サービスも存在するが、 コストを考えると一般ユーザには利用しにくい価格だ。
まず、一般にバックアップに使えるメディアとしてはDVDを考えると、 約5GBのDVDでは、100GBをバックアップするには20枚の交換作業が必要である。 それに加えてハードディスクを読み込んでDVDメディアに書き込むので、 非常に時間がかかる。 最新の8倍速のDVD-Rドライブで単純計算でも約4時間必要だ。
そこで、ハードディスクにバックアップする方法が現実的だ。 USB2.0やIEEE1394で接続できる外付けディスクも多数販売されている。 理論値では、1時間に約200GBコピーできることになっているにもかかわらず、 様々なボトルネックが存在するので、実際の転送速度は1/3程度である。 バックアップにかかる時間が減らすには、 専用ソフトウェアを使って、 更新があったファイルのみを保存するのがいいだろう。
データが一番大事だから
機械的な故障でデータの損失といった被害を受けないためには、 個別PCのハードディスクにはデータを置かずに、 ネットワークで接続されたサーバに保存すれば安全だ。 小規模用NASが安価であるし、テレビ放送用ホームサーバも実用になりそうだ。 ただし、LANでもギガバイトの映像ファイルを気軽にやりとりするのは難しい。 また、機械的に動作する磁気ディスクを使わず、 フラッシュメモリなどを使ったシリコンディスクというのも考えられるが、 現状ではコスト的に難しそうだ。
現実的な方式でのバックアップには、 機械的に動作する装置を使っていることには変わらない。 機器類に空冷ファンが付いているのは伊逹ではないし、 またディスクそのものが機械的に動作しているということを思い出して、 ほこりを吸い取ったり、変な音がしないか、高音になってないか、 といったちょっとした気遣いが一番の対策かもしれない。 HDDにそうした愛情をこめても、 裏切られることもあるので、 やはり保険のためにバックアップと立ち直るための技術はあった方がいい。
本文中のリンク・関連リンク:
- レポート類
- HDD市場レポート概要
- HDDメーカによる寿命に関するレポート(PDF,英語)
- S.M.A.R.T (Self-Monitoring, Analysis and Reporting
Technology)の規格(PDF,英語)
日本語による簡単な解説 - 材料の不良でHDDの不具合が多数発生 (日経エレクトロニクス)
- 物理的な障害でも一部回復できる可能性もある
- SMART対応のソフトウェア
- HDD温度計 (HDDの温度を測定できる。Windows用)
- smartmontools (温度以外にも様々な情報を取り出せる。Linux用)
- HDDを組込んだ機器(一例)
- 携帯機器 : iPod(アップル)、 ハードディスクビデオプレイヤー(ソニー)
- 各社のカーナビゲーションシステム
- 各社のHDDビデオレコーダー : HDDのみ、 DVDも持つもの (価格.com)
- 小規模NAS : GbitEthernetにも対応(BUFFALO社製)
- USB2.0/IEEE1394対応外付けのHDD : HDD4台で1TB(IO-DATA社製)
- Take IT Easyで取り上げたハードディスクに関連するコラム
- PCと連携できるパーソナルビデオレコーダが欲しい(2002/9/10)
- PCからハードディスクが消える日(2000/3/14)