3月下旬、携帯大手3キャリアは5Gの商用サービスを開始した。それと同時に、各社は5G通信に対応したスマートフォンの販売も開始した。これにより日本で初めて、一般消費者がスマートフォンを用いた5G通信を行えるようになった。
4G通信と異なる5Gの特徴として挙げられるのは以下の3点である。
- 高速(時間あたりに転送できるデータ量が多い)
- 低遅延(データが素早く届いて遅れが少ない)
- 多数同時接続(1つの基地局に対して同時に接続できる端末が多い)
5Gのこれらの特徴をうまく活用することで、生活やビジネスが大きく変わると言われている。
ところが、一般消費者が、大量のデータを、低遅延で、多数の端末が存在するような場所で取得しなければならない、というユースケースは、案外探すことが難しい。家の中や街中ではまず考えられないだろう。
現時点でのユースケースの本命はローカル5G
そこで活用が期待されているのはローカル5Gの技術である。ローカル5Gとは、個々の事業者が特定の事業所内や領域内でのみ使えるように構築する、5G規格の通信ネットワークのことである。
キャリアの提供する5Gとは異なる周波数帯を利用し、電波自体も特定の範囲内に収めるため、電波の干渉が少なく、情報漏えいのリスクが小さいことも注目されている。
すでに実証段階に入っている事例としては、建設現場や採掘現場での建機の遠隔操作である。通信速度が高速であるために複数の建機から同時に鮮明な映像を取得することができ、低遅延であるためリアルタイムな操作がしやすい。
他にも、2019年ラグビーワールドカップ会場で、観戦者が支給されたタブレットを用いて試合を多視点で同時視聴できる「マルチアングル視聴」や「ライブビューイング」が行えるサービスも提供された。高速・低遅延・多数同時接続という特徴をうまく活かしたサービスだ。
ローカル5G整備のハードル
ただ、ローカル5Gも簡単に用意できるわけではない。
まず設置にあたっては、設置者または設置を委託する事業者が免許を取得している必要があるため、設置可能な事業者は限られる。
そして基地局の設置と5G対応端末の導入も必要となる。基地局もただ設置すれば良いということではない。どこにどのような基地局を設置するのかを決める通信エリア設計が必要で、周辺に同じくローカル5Gを利用している利用者がいた場合にはカバーエリアに関する調整をしなければならないなど、機器購入・工事以外のコストもかかってくる。
有線接続、Wi-Fiという選択肢
改めて考えてみると、少なくとも高速・低遅延の通信はLANケーブルによる有線接続で実現可能である。言ってしまえば、もし配線が可能であり、高速性と低遅延が重要なら、わざわざ5G基地局を設置したり対応端末を導入したりする必要はない。
5Gの活用例として挙げられるものの一つに、遠隔医療がある。高精細な患部画像を低遅延で送受信することにより遠隔診断を高信頼化できるとされている。ただ、遠隔であっても患部画像の撮影は通常病院の屋内で行うものであり、わざわざ5Gの基地局を立てるより、有線接続を整備したほうが導入・維持コストが圧倒的に低いことは明らかだ。さらに言えば、診察する側・される側の拠点間の伝送路の通信が低速・高遅延であれば、どれだけローカルな通信を早くしても全く意味がない。
加えて、従来のWi-Fiより高速で、同時多数接続性能も強化されたWi-Fi 6(最大通信速度9.6Gbps)という規格も生まれ、2018年から対応製品も販売されている。辞書サイズほどのルーターと電源・有線LANさえあれば利用でき、免許も不要で設置ノウハウも多いWi-Fiの方が、ローカル5Gよりも平均的に設置・運用コストが低いはずである。
端的に言えば、5Gの3つの特徴(高速・低遅延・同時多数同時)のいずれかが必要で、無線通信でなければならない、しかもWi-Fiでは不可能である、という通信が、「5Gでなければならない通信」である。やや期待が高まりすぎている感のある5Gだが、5Gを有効活用できるユースケースがどこにあるのか、冷静に判断する必要がある。