IT革命は幻か

「IT革命」は本物だろうか、それとも幻だったのであろうか。

失速したITバブル

2000年は「IT革命」の年だった。 誰もがITと浮かれ、ネットビジネスで一攫千金を夢見た人も多いだろう。 我々も「これからのIT革命」を出版しITブームに乗った。 ITでビジネスが変わり、社会が変わる、IT革命を予感させる年であった。 ところが、一転して今年はアメリカのネットバブル崩壊を受け、 日本でもIT株が暴落中である。 高い株価に下支えされた事業拡張戦略が行き詰まり、 ITベンチャーはどこも経営の見直しを迫られている。

「ちょっと待った!IT革命」「IT革命 根拠なき熱狂」 「IT革命の虚妄」「IT革命の光と影」 すべて今年に入って出版された本のタイトルである。 IT革命は我々の生活を豊かにはしない、 ITによる持続的成長など幻だ、といった冷めた分析から、 果てはIT革命などは起きていないとまで言い切る人もいる。 いずれもある意味正しい指摘であり共感できるところもある。 特に、IT革命で高度成長やバブルの再来を期待した人々には一読の価値があるだろう。 ITの技術的本質を軽視し、 ネットビジネスに集まる過剰な期待感を苦々しく思っていた筆者にとっては、 それみたことかと思わないでもない。

かつて1980年代に「ニューメディア・ブーム」が起こり、 やはりバラ色の情報化社会が描かれ、そしてはじけた。 規模こそ桁違いだが、 今回のネットバブルも技術やインフラが整わないままに、 イメージ先行の期待外れに終わる、という意味では驚くほど似ている。

IT革命には一世代30年かかる

今回の「IT革命」も一過性のブームなのだろうか?
いや、そうではないと思う。

革命というと一夜にして大変革がおとずれると捉えがちである。 だが、これまでの革命において産業構造や社会・文化が2〜3年で変革したことは一度もない。 蒸気機関が発明されたとたんに産業革命が興ったわけではない。 一世紀をかけて少しずつ産業、社会、文化が変革していったのである。 1990年代のロシア・東欧にも革命的変革が訪れたが、 ベルリンの壁が崩壊したからといって、 すぐさま資本主義に移行できるはずもない。 なにより人の価値観はそう簡単には変革できないのだから。 真に革命的変革が根付くには、新たな教育を受けた次の世代を待たねばならないのだ。

IT革命が社会に定着するにも、一世代つまり30年は必要であろう。 生まれながらにしてIT社会に馴染んだ世代が、 社会の中心になるまで待たねばならない。 それは今の10代後半から20代前半の世代である。 彼らはITを意識せず使いこなせる最初の世代である。 携帯電話とテレビゲームという2大ITツールを長時間訓練してきた彼らにとって、 ITリテラシーやデジタルデバイドはある意味無縁である。 使えて当然、使えないのは少数派なのである。 この世代が社会の中心となる30〜40代になる頃には インターネットは今の電話と同じ、ただのインフラとなる。 さまざまな情報技術も生活や仕事に自然に入り込み、 その多くは意識すらしないであろう。 そのとき昔を振り返って「ああ21世紀初頭にIT革命が確かにあったのだな」 と気づくのではないだろうか。

コミュニケーション革命としてのIT革命

IT革命の本質はコミュニケーション革命である。 マスコミ中心の上意下達だけでなく、 個人同士の草の根コミュニケーションが確実に社会に影響を与えはじめている。 近年のNPOの発言力増大もインターネット抜きには考えられない。 個人が自分の力に気づき、発信しはじめている。 情報がオープンになり、経済だけでなく、 政治や教育といった社会システムをも改革し、 既得権を次々崩壊させる可能性を秘めている。

ネットビジネス自体はまだまだ小さな市場しかない。 しかし、産業全体に広がる価格破壊現象は、 消費者がインターネットで価格を気軽に比較できることが一因であろう。 ナップスターによる P to P (個人間)のデータ交換は、 音楽業界を震撼させる大事件となった。 このように個人が先端技術の恩恵を真っ先に受けられるのは、かつてない現象である。 その意味で既にIT革命の間接的影響は経済全体に及んでいるのである。

IT革命の社会・政治・教育への波及はやっと始まったばかりである。 しかし、たとえネットバブルがはじけようと、IT革命は着実に進行している。 走りはじめたIT革命に乗り遅れるなと突っ走るのか、 どうせ30年かかるならのんびり構えようか、 それはあなたの考え方次第である。