100回記念座談会「IT革命はホントに来るの」

おかげさまで週刊ITコラム「Take IT Easy」も1998年12月1日の創刊号から数えて、 今号で第100回を迎えることができました。 気づけばもう2年、いろいろな反響もいただき、この夏には本を出版することもできました。 ひとえにみなさまのご愛読のおかげです。深く感謝いたします。 これからもニュースや解説とは一味違う楽しく読めるコラムをお届けする所存ですので、 今後ともよろしくお願い申し上げます。

100回を記念して今号はちょっと趣向を変えて座談会形式でお送りいたします。
テーマは「IT革命はホントに来るの?」です。 とっても長いので、お暇なときにでもお読みください。

インターネットの情報の価値

比屋根
「IT革命っていうけど、本当は一体何が変ったのでしょう。 IT革命本まで出したのに実はあまり実感がないんですよね? お客さんがメール使うようになってくれて、便利になったなあとかはあるけど。」
松尾
「そういえば最近の仕事で、最初の一回だけは会ったけれど、 後はすべてメールですませてしまったことがありますね。 電話すらしなかった。二回目に会ったのはなんと報告会だった。」
比屋根
「それはかなりすごいかも。 Webで手に入る資料が増えたので、 図書館に行ったり、海外支社に頼む機会が減ったかな、 というのもありますね。」
白井
「このへんはちょっと疑問ですね。インターネットって、おおざっぱにいって 情報ライブラリとしての価値とコミュニケーションツールとしての価値があると 思うけど、情報ライブラリとしての価値はどうなんでしょう ?
WWW 上で公開されている情報の量×質 (つまり役にたつ情報の量)は、せいぜいちょっと大きめの町の本屋くらいという 話しもあります。情報ライブラリとしての将来を描くなら、情報の信頼性という のは避けて通れないテーマでしょう。」
比屋根
「確かにまともに使える情報量という意味では、激増したとは言えないかもしれませんね。 元々どこかにあった情報がほとんどだから。お金と手間さえかければ、 以前だって集められました。個人が発信する情報を別ですけどね。」
澤部
「情報ライブラリの価値という意味では、 本質的に変わったのは情報アクセスの容易さかな。 自宅からアクセスできる情報量が格段に増えたでしょう。 しかも無料で。だから情報の受け手の数が桁違いに増えましたね。 この意味は結構大きい気がします。」
比屋根
「確かに。自分だけ持っているというところに情報の価値がありますからね。 株のインサイダー情報なんて典型的ですけど、 旨いレストラン知っているだけだって十分価値があります。 ところが、インターネットでずいぶん価値が下がってしまった情報が多いですね。」
澤部
「情報だけじゃなくてデパートなんてのも、インターネットのおかげでかなり価 値が下がりましたね。百貨店的価値は、断然インターネットの方が強いでしょう。 良い意味でも悪い意味でも百花繚乱だから。」

IT革命はいつ始まる?

比屋根
「ところで、会社のしくみ自体にIT革命という実感はまるでありませんね。 たぶん世の中一般もそうじゃないと。 新しいネットビジネスやっているところは別ですが、 大多数の会社はまだまだという感じです。」
保田
「IT革命の前にBPRという言葉が6、7年前にはやりましたね。 花王などの成功例がとりあげられていました。 日本ではシステムにビジネスプロセスをあわせる風潮がなくて云々、 という話になっているようですが、 地道な変化はそれなりにされているのではないでしょうか。」
澤部
「『地道』という時点ですでに『革命』じゃない気もしますが、、、。」
保田
「初期投資がかかる点では企業体力の差、というのはどうしても出てくるでしょう。 でも、メールやWEBベースでEDIができる仕組みが整いつつありますから 中小企業が参加する敷居は低くなっているといえるでしょうね。 中小企業や昔ながらの組織の場合、一番の問題は人材でしょうか?
eマーケットプレイスで調達コストを削減するという動きも活発化しつつあります。 初期投資がどの程度で回収されるのかはわかりませんが(ここが重要)、 BtoB取引は確実に増えているようですね。」
比屋根
「BtoBは全員(全社)で一斉に導入しないと、 効果が上がらないというのが問題ですね。 業界に影響力のある会社が強引に始めないと進まない。 逆に言えば、どこかの時点で一気に「革命的」に移行するのだけど、 まだ始まっていないということかな。」
澤部
「2004年の電子政府は確実にターニングポイントになるでしょうね。」

ITがインフラになる条件

白井
「社会インフラというのは、必ず存在するこということが前提ですよね。 例えば、流通システムは、鉄道や道路が必ず毎日動くという保証を もとに構築されていますし、我々が郊外に家を買ったりすることができる のも、毎日電車通勤ができるという前提にたってのことです。
この意味で、IT というのはまだまだ社会基盤にはなっていない、というのは いいすぎかもしれないけど、少なくとも多くの人にとっては社会基盤だと は思われていない。」
澤部
「 仕事上でも、メールを送った直後に『今メールを送ったんですが届きました か?』と電話をかけてくる人がいまだにいますしね。」
白井
「何が問題かといわれるとよくわかりませんが、やはり信頼性でしょうか? ただ、電車も一年に数回は止まるわけで、そういう意味では、 客観的な信頼性というよりは心理的な問題(慣習)でしょうか?」
比屋根
「メールが出せないと、たぶん電話の不通と同じくらい激怒しますね。 ホームページが見えないのは、まあ仕方ないや、と思うけど。 オンライン銀行振込ができなかったら、やっぱり怒るでしょう。 受動的に使っているか、能動的に使うようになったか、で違うのかもしれません。」
飯尾
「信頼性は確かに問題でしょうね。 さらにいえば客観的な信頼性よりも主観的なそれ。
とくにネットワークが介在したときの信頼性を、 本当に客観的に評価できる人はなかなか居ないんじゃないかと昨今は痛感しています。
基本的にインターネットの技術はいいかげんだから。 いいかげん、ていうのは悪い意味ではなくて、 信頼性よりも新しい可能性を重視してきた、 ってことですよ。 私はインターネットの信頼性は非常に低く評価していますよ。」
比屋根
「もともとインターネットはベストエフォート (=届けるよう頑張るけど、届かないかも) なネットワークですから、信頼性の低いのは当たり前ですよね。 リアルビデオなんかでトラフィック見るとよく分かるのですが、 数分に一回は途切れるし、1/10位しか速度が出ていないことも頻繁です。」
澤部
「この間、某通信事業者の方に話を聞いたのですが、 『これからは一般の利用者の方にベストエフォートという概念を理解してもらわないと、 コストパフォーマンスのよいサービスを提供できない』と言っていました。
我々は「インターネットは信頼性が低くてあたりまえ」と思っているけど、 一般の人はそれがなかなか理解できないらしい。 郵便にしろ電話にしろ、日本は郵政省指導でかなりクオリティが高いでしょ。 郵便の半分以上が届かないなんて国もある中、日本じゃほぼすべての郵便が届きます。」
比屋根
「正月に郵便配達人が面倒になって年賀状が捨てられたなんてのが、 全国ニュースになる国ですからね。」
澤部
「NTT の公衆回線も同じで、 例えばブロードバンドアクセス上で IP 電話サービスなんかを立ち上げたら、 ものの数分程度の不通になろうものなら「何やってんだ」 とユーザからもマスコミからも叩かれるわけです。」
比屋根
「稼働率99%と99.99%の違いですね。 ときどき止まるけど、べらぼうに安い、 というのも十分インフラの一つのあり方だと思うなあ。」
澤部
「人命に関わらないようなものは、 私は基本的にベストエフォートでいいと思います。 ただし程度の問題もあるので、 ベストエフォートのグレード、A/B/Cとかを決めて、 それを明示するというのがいいかな。
通信じゃなくてサービスの話になっちゃうけど、 例えば電子政府とかで申請を受け付けるサービスが立ち上がったとして、 「平日9時-5時以外の時間にシステムに不具合があった場合には、 サービスの再開は翌日以降となります」なんてこというと、 確実にグレードは C になるね。」
比屋根
「グレードCでも今の区役所よりは便利なので、わたし的にはOKですね。
それにしてもITの信頼性という視点は結構いけますね。」

いつまでバグを買わされるのか

飯尾
「信頼性からちょっと話がとびますが、このあいだインテルのリコール騒動が ありましたよね。それから三菱自工のリコール問題は大きな社会問題になりました。 最近、『いつまでバグを買わされるのか〜平気で欠陥商品を売る業界の内幕』 という本を読みました。 ソフトウェアにはどうしてリコールに相当する制度がないのでしょう?」
比屋根
「人体に直接影響しないから、というのが理由かな。 オンライン株式取引システムがバグで止ったために、 数百億円の損害賠償という訴訟もありますから、 そろそろソフトのリコール制度が出てきてもよさそうですね。」
飯尾
「この本によると、ソフトウエア市場は発展途上であり、 機能優先(不必要に多機能でしょ)で品質を犠牲にした低品質のソフトが 附合契約で守られるのが現状だそうです。」
比屋根
「『附合契約』って?」
澤部
「インストールするときに「同意しますか?Yes/No」って出てくるあれ。 要するに、一方的に押し付けられる契約ですね。」
飯尾
「それに加えて検討中である米国の新法(統一州法)は不当な 『シュリンクラップライセンス』を擁護する方向に進みつつあるので、 ぜひとも阻止せねばならない、ということらしい。」
比屋根
「リコール制度どころの話じゃないんですね。 バグにお墨付きつけてどうするという感じですな。」
飯尾
「比較的新しい本にもかかわらずオープンソースの枠組みについて触れてい ないのが若干片手落ちかとも感じましたが、ろくでもないソフトウェアを マーケティングだけ(?)で売り捌いている会社もあるのが現状ですので、 内容にはなかなか共感するところが大きい本でした。」
比屋根
「Webサーバで有名なアパッチはウインドウズやサンのWebサーバより 圧倒的なシェアがあるよね。これは品質が大きな理由になっているけど、 オープンソースの品質が優れている理由はなんなのでしょう? 極論すればアマチュアサークルが開発しているのに。」
澤部
「下手なプログラマーの手が入らないことかな。」
比屋根
「それは言えてる。 やっぱりプログラマ自身が使いたいソフトを作らなきゃね。」

IT革命はホントに来るの?

比屋根
「さて、そろそろここらで無理やりまとめてしまいましょう。 IT革命はホントに来るのでしょうか?」
白井
「まずインターネットがインフラとして認められなければダメでしょうね。」
澤部
「インターネットはそもそも電話や郵便と違うんだ、 と信頼性の意識が変ればインフラと認められないですかね。」
飯尾
「ネットビジネスと騒がれている割には、今のところ量的にはごくわずかですね。」
比屋根
「ネットビジネスを使ってみると、 何十年と続いた紙と郵便が意外に使いやすくて信頼性も高かったと 実感してるんじゃないかなあ。」
澤部
「いや〜、もうすぐですよ。3年後にはみんな電子財布でランチ食べてたりして。」

いかがでしたでしょうか?内幕をさらしたようで少し恥ずかしい気もしますが、 こんな半分無駄話の中から「Take IT Easy」のネタが生まれています。 次号はいつも通りのコラムに戻りますが、 また機会があれば(200号か?)座談会を開いてみたいと思います。
(編集長:比屋根一雄)