先週末に Take IT Easy のコラムをもとにした 「三菱総研 これからの IT 革命」(学生社) がめでたく発刊の運びとなった。 実は今回は、別の内容のコラムを掲載させていただく予定でいたのだが、 発売記念ということもあり、また、 沖縄で開催されたサミットでも IT 革命が中心議題 のひとつとして取り上げられた (実はそうでもなかったようなのだが、それは置いておくとして …) ということなどもあって、急きょ話題を変更して、 「IT 革命」という言葉の意味するところについて、ちょっと考えてみたいと思う。
IT 革命の視点
「これからの IT 革命」というのが今回の本のタイトルなのだが、 この本自体は、IT 革命を体系的に説明しているわけではない。 IT に関するさまざまな興味深いトピックをならべて、 読者に IT 革命の雰囲気を感じとってもらおうというのが、 この本の趣旨である。 だから、「結局 IT 革命が何なのかさっぱりわからなかった」 という方もいるだろうし、 「革命などと大げさにいっているが、実は単に技術が進歩しただけの話ではないか」 と思われた方もいるだろう。 そもそも革命という言葉自体がかなり刺激的な言葉で、 普段目にするコンピュータのディスプレイの中で、 なぜ革命のようなことが起こるのか、違和感を覚える方もいるはずだ。 革命という言葉の是非はともかくとして、重要なことは、 情報技術自体に革命が起こった、ということではないし、 それがコンピュータのディスプレイやインターネットの中で起こる、 というような話でもない。 情報技術自体は確かにここ数年で大きな進歩を遂げたが、 それは単なる技術の進歩である。 IT 革命という言葉に込められた意味は、 それが結果として社会の構造を変えつつあるということだ。 だから、IT で何をするか、ということではなくて、 IT を使うことで結果として何が変わるか、 ということがIT 革命の本質的な視点であると思う。
IT で何が変わるか/変わらないか
そうした観点で考えると、 経済構造や私達の生活様式を大きく変えるような変革は確かに起こっている。 多くはここに記すまでもないが、 流通の中抜きが起こったり、コミュニケーションの形態が変わってきたり、 ITS で渋滞解消なんてことも期待されている。 これらは確かに大きな変化だ。
しかし一方で、結果としての変革を抜きにして、「IT で何をするか」 のみの観点で IT 革命が論じられることも多々あるようだ。 例えば、社内で電子メールを導入したり、プレゼン資料を Power Point にしたり、 社内文書を電子化したりすると、 そこで IT 革命を「実感」してしまう人もいるだろうが、 既存の資料が電子化されただけなら、単に保存形態が変わっただけだし、 電話の代わりが電子メールになっただけなら、通信手段が変わっただけの話だ。 それによって、人員を大幅に減らすことができた、残業時間が減った、 社内ノウハウが共有できて、新商品の開発ができました、 といったような効果こそが革命となるだろう。
こんなふうに考えてみると、私達の生活は、 確かに IT 革命の中で大きく変わりつつあるのだが、 見かけの変化を除けば、 実は思ったほどには変わっていないことにも気がつく。
インターネットでさまざまな情報が得られるようになれば、 本は売れなくなるのではないか、 といわれたこともある(今でもいわれているかもしれない)が、 売上は落ちるどころか、むしろ増えているし、 好きな映画が好きなときに見れるとなっても、 やはり私達はおなじドラマの話題を学校や職場で共有することになるのではないだろうか。
IT 革命は IT を使った社会の変化であると述べたが、 これはもちろん IT 自体の進歩に大きく依存している。 技術の進歩に依存する形で、 社会を変革するような動きが今後本格化して来る可能性がある。 上で述べたようなことも徐々には変わりつつあるのだろう。 IT 革命の波は、ある日突然訪れたような印象もあるが、 いわばこれは終り無き革命である。
おわりに
最後にやや余談だが、島根県平田市の市長が、 市役所でコンピュータを使用してはいけない日を週に一日くらい設けたらどうかと 提言したところ、 いまやコンピュータがなければ仕事にならない、 ということで職員からは大顰蹙を買ったそうである。 ただ、IT によって何を変えようとしているのか、 何が変わったのかを見つめ直す意味では、これはいい問題提起であると思う。 コンピュータで「何かをする」ということが仕事ではないのだから。