見直されるWiFiインフラ

家庭内、企業内でかなり浸透しつつある無線LAN(WiFi)について、移動体通信事業者がインフラとして整備するケースが増えてきた。これまで3Gネットワークと競合するインフラを整備をすることは、基地局設備の大部分は機器の費用よりも設備設置にかかる費用などの大きいため、二重投資になるのではないかと言われてきた。その背景にはいくつかある。

通信事業者のトラフィックのオフロード先として

携帯電話の出荷数のうちスマートフォンが占める割合が50%を超えるようになり、トラフィックが大幅に増えている。例えば、ソフトバンクでは2009年から2010年にかけてトラフィックが260%増加していることや、ドコモも毎年60%増加していると報道されているように、今後5年で10倍から20倍と推定されている。各国の通信事業者も3Gの回線が混んでることを認識しており、海外では定額制を止める事業者も増えている。そうした環境を改善するために「オフロード」と呼ばれる、混雑する3Gからトラフィックを別の通信ネットワークに流すことが行われている。

移動体通信事業者にとっては、WiFiの基地局をユーザが契約する固定系ネットワークにつないでもらえれば機器を無料で配布してもコスト的には十分成り立つ計算だ。しかしながら、本来移動体通信事業者が処理すべきトラフィック、特にWebアクセスによるトラフィックをユーザの固定網側に流すことは契約上問題があり、追加料金が必要であるという認識の固定系通信事業者やISPが一般的だ。コミュニティ型公衆無線LANは普及するか2006年末に日本への進出し注目を浴びたFONについても同様の指摘があった。

移動体通信事業者が自前でWiFi基地局を設置し始めている。これまでは、固定系事業者を中心に「ホットスポット」として、公共施設や人口の多い都市部でのみサービス提供されており、どの事業者も1万箇所程度にとどまっていた。そうした中で、例えば、KDDIでは、今年度中に10万局、ドコモも現在の6800箇所から数万局といった従来とは異なる事業展開を進めている。また、海外の事例として、中国ではChina Mobile、China unicom など通信事業者各社が100万局の設置を予定している。一方で米国では、本コラムでも紹介したように自治体が中心となってメッシュ方式で面的なカバーを進めていたが、事業者の撤退など必ずしもうまくいっていないようだ。

前述のコミュニティベースで提供範囲を広げているFONは、現在グローバルで400万箇所を超えるホットスポットを提供しており、ソフトバンクなど通信事業者と提携し始めており、通信事業者にオフロード機能を提供していることになる。

一時的なインフラにも

災害被災地では、固定系通信インフラの復旧は工事が必要になるため、通信インフラは無線しか残されていないことが多い。そうした中で、固定、3G、WiMAXなど生きているネットワークを利用してWiFiネットワークをホットスポットとして地域で供給できれば通信ネットワークの回復が早くなる。実際、今回の東日本地震の際にも、情報通信機構がコグニティブ無線ルーターを提供しており、早期のネットワーク復旧により被災者支援活動にもつながっている。

また、消費者にとっても、スマートフォンだけではなく、タブレット端末等通信機能を有する端末を複数持つケースが増えており、契約をまとめて使えるモバイルルーターも増えている。自分の周りに提供されるWiFiインフラにもなっている。

将来に向けて

2.4GHzのISMバンドはライセンスなしで使えて、通信機器メーカーにとっても提供しやすいため、様々な用途で使われていることもあり干渉しやすい。WiFi用の周波数を確保することが望まれる。

米国では、地上波放送のデジタル化に伴い、空き地となった周波数帯域の中から使っていない周波数を自動的に探して、WiFi方式を使えるようにする方式をSuper WiFiと呼んでおり、2010年に監督官庁であるFCC(連邦通信委員会)に認可されている。ただし、使用する周波数が異なるため、一般に使われているWiFI(IEEE 802.11a/b/g/n)と同一のものではない。

また、無線LAN(WiFi)をより高速化する方式については、1Gbps以上の速度を実現するIEEE 802.11vht(Very High Throughput)という枠組みでの標準化が進んでおり、6GHzを使うIEEE702.11acと60GHzを使うIEEE802.11adがドラフト標準段階になっている。

動画配信やUstreamのようなテレビ電話のような使い方では、実効の通信速度が1Mbps程度の3Gの速度は十分ではないことは、事業者もユーザも共通した認識である。そのため、WiMAXやLTEなどの3.9Gを活用する必要がある。しかしながら、現在の端末普及度を考えるとコスト面で不利である。そのため、当面WiFi経由での利用が現実的であろう。これまで携帯電話の事業者に対する評価は、接続可能なエリアに関する評価が大きな割合を占めていたが、今後通信速度も重要視されるはずだ。また、WiFiの場合には、接続や認証に長時間がかかっているので、利用できるまでの時間が減るような技術も求められるだろう。