コミュニティ型公衆無線LANは普及するか

2006年12月、ヨーロッパを中心に活動していた公衆無線LANサービスの FON
がとうとう日本にも上陸した。日本では普及が思うように進んでいない公衆無線LANサービスに一石を投じることができるだろうか。公衆無線LANについてはこのコラムでも以前「公衆無線LANサービス再び」として紹介してきたが、今回はFONの特長を紹介しつつ、公衆無線LANサービスのあり方について考えてみる。

FONとは?

FONは、家庭など個人が設置した無線LANアクセスポイントを共有しあう世界規模のコミュニティである。スペインからスタートして、主にヨーロッパでその数を増やしてきたが、2006年12月に日本でもサービスを開始した。FON
コミュニティに参加するもっとも代表的なやり方は、「ラ・フォネラ」と呼ばれる無線LANルータを購入してアクセスポイントを他のメンバにも無料で公開することだ。自分のアクセスポイントを公開する代わりに、世界中の他のアクセスポイントも使えるようになるという仕掛けである。

FONのメンバは大きく3種類に分類される。前述の「ラ・フォネロを無料で公開する」タイプは「Linus(ライナス)」と呼ばれる。一方、「ラ・フォネロを有料で公開する」ことも可能で、こちらのタイプは「Bill(ビル)」と呼ばれる。ラ・フォネロを所有せずに有償でアクセスポイントを利用するタイプは「Alien(エイリアン)」と呼ばれる。Linux
とMicrosoft の創始者の名前を冠したタイプ名はユーモラスであるが、FONの本質を突いているとも言える。すなわち、Bill は
Alien なくして成り立たないが、Linus はLinus 同士のみで繁栄することが可能である。FON の中心はあくまで Linus
なのである。

アクセスポイントの数は、日本でも日々増加しているようである。既に10,000台以上がメンバの手に渡っているらしい。その様子は
Google map を使って見ることができ、自宅の近くでも次第にアクセスポイントの数が増えてきていることがわかる。

発祥の地、スペインの様子を見てみると、市街地にたくさんのアクセスポイントが設置されているのがよくわかる。これだけの数があれば、街中どこでも使えると思って差し支えないだろう。

コミュニティ型公衆無線LANの魅力

日本の公衆無線LANサービスは、「ホットスポット」の名前が示すとおり、特定の場所でのみ使えるタイプが多かった。駅や空港、飲食店など人が集まる場所に特別に設置するという考え方である。無線LANアクセスポイントの設置効率を考えるとこのやり方は理にかなっているようにも思える。しかし、これではいざ使おうと思ったときに近くにアクセスポイントがないというケースによく出会う。出張などでたまたま訪れた街で「ホットスポット」を探すのはかなり難しい。

一方、海外では公衆無線LANサービスの面的展開を狙ったものが幾つか出始めている。台湾の台北市やアメリカのサンフランシスコ市が有名だが、そのどちらも民間ではなく公営事業として進めている所が興味深い。面的展開でユビキタスサービスを提供するためには数多くのアクセスポイントを設置する必要があるため、資金力や政治的な決断が必要になるのだろう。日本でもライブドア社が東京の山手線の中を面的にカバーしようと計画しているが、事業として成功しているとは言い難い。

私企業で面的展開に成功している例外的事例が Google Wifi
である。Google本社のあるカリフォルニア州マウンテンビュー市で無料の公衆無線LANサービスを提供しているわけだが、その意図はやはり広告ビジネスのようだ。ユーザが利用したアクセスポイントの位置を特定して、その場所に有効な広告ページへのリンクを表示することが可能となる。しかし、このような試みは巨大企業となった
Google
だから可能となったものだろう。公衆無線LANのインフラ整備には多大な資金が必要となるため、資金力の乏しいベンチャー企業などでは体力が続かない。

その点、コミュニティ型と言える FON
の戦略は、その草の根的な側面から、インターネットが爆発的に普及していったころと様相が似ている。互いに自分のリソースを提供しあうことによって巨大なインフラが作り出せることは、インターネットですでに証明済みである。現時点では、家庭にラ・フォネラを設置して不特定の人に利用させることが、ISPとの契約違反にあたる可能性は否定できない。しかし、FONコミュニティの活力はそうした契約を見直す契機にもなりうると筆者は考えている。それほどにFONが作り出す公衆無線LANインフラには魅力がある。

公衆無線LANインフラ整備の主体はどうあるべきか

仮に、ユーザがある程度満足するレベルの公衆無線LANサービスが既に提供されていたならば、FON
のような活動は起こらなかっただろう。現状に不満があるからこそ、FONコミュニティは参加者が増え続けるわけである。

コミュニティ型のサービスは、一度勢いがつくと驚くほどの速度で普及する。しかしその半面、制御が利かなくなる恐れもある。悪名高いWinnyも、ウィルスや情報流出騒動がなければ立派なインフラになったかもしれない。FONもこうした脆さを併せ持っていることを常に意識する必要がある。

筆者自身は、FONに賛同しながらも、実はサンフランシスコ市の取り組みの方に軍配を上げたいと考えている。日本がIT立国を目指すのであれば、公衆無線LANサービスくらいは公的機関が先導して整備して欲しい。民業圧迫の恐れはあるが、多くのユーザが
FON に魅力を感じてしまう昨今、国や地方自治体レベルでの政治的決断に期待をしたいところである。

  • FONの日本語サイト
    GoogleやSkypeが資本参加しているところも興味深い。
    1,980円のソーシャルルータ「ラ・フォネラ」を購入することにより、FONコミュニティに参加できる。
  • 台北市で展開されているWiflyサービス
    1ヶ月399NT$(約1,500円)/1年間4,200NT$(約15,000円)で提供されている。面的展開をしているとはいえ、料金は日本の商用サービスとあまり変わらない。
  • 2007年1月5日に発表された サンフランシスコ市とEarthLink社、Google社の契約締結のプレスリリース
    サンフランシスコ市では公衆無線LANサービスを展開するために、長い時間をかけて広く提案を公募し、EarthLink社とGoogle社の提案を受け入れることとなった。これにより、サンフランシスコ市では無償か、非常に安価に公衆無線LANサービスを開始することになる。
  • Google本社があるカリフォルニア州マウンテンビュー市で展開しているGoogle Wifi
    無料の公衆無線LANサービスを提供している。少なくとも5年間は無償提供を続けるらしい。
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