ADSL誇大広告問題の本質

総務省の発表によると、ブロードバンド(FTTH,DSL,CATV)によるインターネッ
ト利用者数が、2003年5月末時点でとうとう 1000万人を超えたらしい。ADSL
はその中でも8割を占めていることから、携帯電話と並んで日本のインターネッ トを支えていると言っても過言ではない。しかし、その ADSL
にも課題がいく つかあるようだ。今回は、「誇大広告」問題を中心に、ADSL の現況について 検討した。

ADSLの誇大広告問題

ADSLは今や800万加入者となった日本のインターネットのアクセスラインの 代表格だが、最近は「誇大広告」が問題視されている。
公正取引委員会の公表もあり、 総務省では、ADSL
業者がうたい文句にしている「最大12Mbps」のよ うな最大速度表示が誤解を招きやすいとして、年内を目処に広告表示基準を策
定するらしい。

確かに、広告通りの最大速度に近い性能が得られている家庭は少ないだろ う。昨年のコラムでも紹介したとおり、ADSL
は既設の電話線(銅線)を使うために、伝送距離による劣化が著しい。電話回線が収容さ
れている局との距離や、伝送路の途中の状況によって速度が大幅に低下するこ ともよくある。筆者も「最大8Mbps」の ADSL
ユーザだが、速度計測サイトで 計ってみると、2Mbps そこそこしか出ていない。

このようなベストエフォート型サービスでは、しばしばこのような紛らわ
しいことが起こる。しかし、インターネットそのものがベストエフォートの典
型なので、アクセスラインの速度にあまり目くじらを立てても仕方がないとい う側面もある。実際、2Mbps も出ていれば、メールや Web
を使ってインター ネットを利用するのに困ることは何も無い。

ADSLの速度競争

しかし、ADSLの速度向上への欲求は尽きることがないようだ。今夏には最 大24Mbps (一部26Mbpsと表記)の ADSL
サービスが各社から提供される予定だ。 ところで各社の提供メニュー(下表参照)は少し興味深い。誇大広告問題が表面
化した時期とサービス発表時期が微妙に前後したこともあり、メニュー名に最
大速度が入っているものとそうではないものが入り乱れている。

各社の24Mbps ADSLサービス(2003年7月現在)

企業名 サービス名称 ADSL方式
NTT東日本 フレッツ・ADSL モアII G.992.1 AnnexI
NTT西日本 フレッツ・ADSL モア24 G.992.1 AnnexI
イー・アクセス ADSLプラス G.992.1 Annex I
アッカ・ネットワークス 26Mサービス G.992.1 Annex I
ヤフーBB Yahoo!BB 26M G.992.5 Annex A

これまでの12Mbps から一気に2倍の 24Mbps に高速化されたわけだが、そ
の仕組みは「ダブルスペクトラム」の使用と「フレーム」処理の向上だ。簡単
に言うと、これまで使っていた周波数帯を倍に増やして(上限を1.1MHzから
2.2MHzに)、さらにデータを2倍に圧縮して送ることにより実現している。周波
数帯を増やしたことにより、アマチュア無線と干渉する可能性があるため、そ
の周波数帯(1.8MHz〜2.0MHz)では送信電力を落とすという対策を講じている。

24Mbps サービスに引き続き、この秋には最大速度 30Mbps のサービスも登 場する。さらに技術的には、
例えば米センティリアム社が開発した eXtremeDSL MAX では、最大 50Mbps も可能だ。ITU-T
(国際通信連合 電気通 信標準化部門)の標準化作業を待たなければならないが、1,2年後にはこのクラ
スの高速サービスが登場しそうだ。

やはり課題は「上り速度」

誇大広告で問題になったのは「下り速度」だが、ADSL の根本的な課題は 「上り速度」の向上にある。下り速度は最大 24Mbps
に高速化されたもの の、上り速度は相変わらず 1Mbps のままだ。上述のセンティリアム社の eXtremeDSL MAX でやっと
3Mbps となる。

上り速度向上を目指すのであれば、同じDSLでも VDSL (Very high-bit-rate Digital
Subscriber Line)の方が勝っている。ADSL
と同様に電話線を使って、さらに高速のデータ通信が可能になる。ただし伝送距離が短いなどの課題もあるため、電話局に家庭の回線を収容するというADSL
のモデルが現時点では取りにくい。 独インフォニオンテクノロジーズの VDSL 技術を使うと、 1.2km で上り/下りともに 10Mbps
が実現可能だが、 さらなる技術開発が必要だろう。

上り速度の遅さは、ホームページコンテンツをアップロードしたり、大き
な添付ファイル付きのメールを送れば、今すぐにでも体感できるだろう。今後、
ビデオコミュニケーションツールや外出先からアクセスできるホームサーバな
どが普及してくると、この上り速度がもっと大きな問題になる。

「広告掲示速度」と「実際の速度」のギャップにユーザが不満を持ってい るうちは、しばらく ADSL
の躍進は続くだろう。なぜならば、まだ実際の速度 にはそれほど不満は持っていないからだ。しかし、上り速度が必要なアプリケー
ションを使い出したとたんに、誇大広告でなくても「これでは使えない」と不 満を持ち、上りも速い FTTH
への移行を検討し始めるに違いない。FTTH との 競争のためには、ADSL の技術開発は手を休める暇がない。