特許制度の原点に立ち戻れ

GIF に続いて JPEG もまた特許ビジネスの混乱に巻き込まれようとしている。 JPEG
は、デジカメやインターネットのコンテンツなどで広く使われている画像フォーマットである。 その JPEG の圧縮技術に対して、
ビデオ会議技術を手がけるアメリカの Forgent Networks社 が今年6月、突如、1997年に同社が取得した特許に抵触するものとして、
同技術を使用するメーカやソフトウェア会社に対して、 ロイヤリティの支払いを要求する姿勢をみせている。
実際、日本の一部大手メーカが高額の特許使用料の支払いを行なっているとも報じられている。 JPEG の標準化を進めるJPEG委員会では、この件に関し深い失望感を表しているが、今回の場合、
この技術を開発した人物が、特許を申請する一方で、 標準化を推進していたのではないか、という疑念も抱かれており、
物議をかもしている。

特許をめぐるトラブル

このような特許をめぐるトラブルは、枚挙にいとまがない (たとえば、Take IT Easy でも過去2度(1999/08/24号2000/06/06号)ほど、
特許ビジネスの問題点を指摘している)。 こうしたトラブルは、もちろん IT 分野に限られた話ではないが、
特に、米国における、いわゆるビジネスモデル特許 (日本では原則ビジネス手法に関する特許を認めていないが、
1997年より認められたソフトウェア特許は、 実質的にビジネスモデル特許に近いものとなっている) の出現により、IT
分野で特に顕著なものとなっている。 現在ごく普通に使われている技術に基づき、開発やサービスを行なってきた企業が、
ある日突然、特許侵害を指摘されることは、まさに晴天の霹靂であろう。

混乱をさらに深める企業側の対応

このような特許ビジネスに対して、 開発企業側としてはどのような対応をとるべきであろうか。

まず第一に、新しいビジネスや製品を開発するにあたっての事前調査、
すなわち、法務部門や特許調査部門の充実を図ろうとするのは当然の対応であろう。 特許庁においても、特許申請段階において、
事前調査を近年中に義務づける方針である。 しかし、特許に抵触するかどうかを判定することは一般には極めて困難であり、
近年のビジネスモデル特許訴訟等に精通したエキスパートが必須である。 法務部門や特許調査部門の整備は想像以上のコストを要する。

また、90年代後半、特に大企業においてとられた方策は、 「攻撃は最大の防御なり」すなわち、
自分達自身で可能な限りの特許を申請し、のちのち、 特許侵害で訴えられないようにしておくという方法である。
例えば、トヨタのカンバン方式は、 トヨタの発案したアイデアであることは明らかなのだが、
それでも、ネットワーク上のカンバン方式の実現に対して、 トヨタは、特許申請をあえて行なっている。 既存の良く知られた手法であっても、
それをコンピュータ上で実現したというだけで、 新たに特許が認められてしまう可能性があるためだ。
これは典型的な防御型の特許申請である。

各企業におけるこのような対応は、企業レベルで見れば、 当然とるべき対応であるとはいえ、全体として見れば、
ビジネスモデル特許をめぐる混乱にさらに拍車をかける結果となってしまったことは否めない。 いうまでもなく、本来とられるべき対応は、
本来の特許制度の趣旨(先行開発者の開発費を回収し、 同時に技術を公開することで技術の進歩に寄与すること) に合致しない特許に対しては、
当該特許の無効性を訴えていくべきである。 すなわち、先行技術の存在が立証できれば、一般的にはその特許は無効であるし、
開発費の回収という観点から明らかに行き過ぎた要求は不当であり、 さらに、すでに標準的に用いられている技術を束縛することは、
技術進歩を促進するという本来の趣旨にそぐわないという主張も可能であろう。 しかし、実際には、これらの立証は難しく、
結果として裁判は長期化することとなり、多額の裁判費用を考慮すれば、
早々にライセンス料を支払ってしまうのが得策ということにもなる。

特許制度の健全な運用を

このような特許をめぐるトラブルに対して、 現行の特許制度そのものを見直そうという動きがあるが、 なかなか意見の一致をみない。
例えば、 技術進歩の激しい IT 分野において、 20年という特許の有効期限は長すぎるという意見がある一方で、
このような特別扱いを認めることは法的に認められないという解釈もある。 また、ソフトウェアは本来著作権で守られるべきであり、
そもそも特許制度にはそぐわない、という見方もあるが、 これもやや極論であるようにも思う。
技術(ソフトウェア)は公開されて再利用されることが望ましいし、 開発者のロイヤリティを得る権利も必要な範囲で守られるべきであろう。
となると、再び、特許制度の本来の趣旨に戻ることになる。 要は、本来の趣旨にそった運用がなされるか否かである。
本当に特許を侵害しているのか、先行技術があるのかないのか、 といったややもすれば不毛な議論に陥る前に、まずは、
その技術が本来の特許制度の趣旨において保護されるべきものであるのかどうか、 といった判断が必要であろう。
健全な技術の進展に寄与すべき特許制度が、 投機ビジネスの対象になり得るような現在の状況が、
少なくとも特許制度の精神に反していることは明らかである。