ビジネスモデル特許をめぐる争い
1999年の年末から2000年の初頭にかけて、 多くのビジネスモデル特許がらみの訴訟が起こされたことは耳に新しい。 代表的なものを列挙すると、 1999年10月15日、Priceline.comが Microsoftを同社の 「リバースオークション特許」を侵害したとして提訴、1999年10月22日、 Amazon.comが Barnesandnoble.comを同社の 「1-Click特許」を侵害したとして提訴、 2000年4月17日には、 逆に Amazon.com がIntouch groupより 「音楽サンプル配信特許」を侵害したとして訴えられるおまけまでついた。
※注1: 本稿は電子商取引を巡る特許論議の続編。
※注2:米国では、”business method patent”と呼ばれ、 直訳すれば”ビジネス手法特許”だが、 ここでは日本での通称である「ビジネスモデル特許」を用いる。
これらの訴訟の中で特に注目を浴びたのが、Amazon.comによる Barnesandnoble.comの提訴で、この後、 Amazon.comは不買運動も含む強い批判にさらされることになった。 AmazonのBezoz社長はその後、特許制度自体の改善案 ──ソフトウェア特許の特許期間を短くする──を表明したが、 自社と株主利益の立場から、例の特許に関する権利は放棄しないとしている。
見えてきた?今後の方向性
このような混乱の中、米特許庁は 2000年3月29日にビジネスモデル特許に関して、 特許審査官のトレーニングや審査基準の強化を含むアクションプランを発表、 これまでの姿勢を大きく転換した。 この米特許庁の姿勢変化により、今後はビジネスプラン特許申請ブームも少し落ち着いてくるだろう。
余談になるが、そもそもビジネスモデル特許問題を大きくした要因は、 米西海岸のIT業界の支持を得たクリントン大統領による政策の一環として、 ビジネスモデル特許の取得が容易なように1996年から審査基準が改められたことだ。 そして、皮肉にも大統領任期最終年にその矛盾が噴出し、方向修正をせまられたことになる。
とはいえ、このアクションプランによってビジネスモデルの問題が解決したと見るのは早計だろう。 というのも、今後あるべき審査基準について議論するため、 米国内においてラウンドテーブルが今後開催されることになっているからだ。
ITに取り残される知的所有権
ビジネスモデル特許の問題は、 従来の特許権という概念・制度がIT技術に十分に対応できないことを図らずも露呈した。 デジタルコンテンツの違法複製が提起した著作権の問題とあわせ、 結局、従来の知的所有権制度のすべてがIT技術の登場によって見直しを迫られている。
個人的には、知的所有権制度の大幅な見直しは避けられないと考えている。 検討が先行している著作権制度では、WIPO 新条約とそれを受けた著作権法改正によって、 制度の中身まである程度踏み込んだ見直しが行われた。 よりラジカルに、デジタルコンテンツを対象とした複製権主体から利用権主体への移行が望まれるが、 はじめの一歩として評価したい。 一方、特許権に関する議論はこれからで、 ビジネスモデル特許に関する権利期間の短縮や、審査基準の世界的な統一などが必要だろう。
考えてみれば、15世紀のベニスに端を発する特許権と、 18世紀にイギリスで法制化された著作権が、 21世紀になろうとする今まで生き延びているのだから驚きである。 しかし、つぎはぎだらけの知的所有権が、 変化の速いIT時代を生き延びるのはこれまでの数世紀に較べればずっと困難だろう。 とはいえ、新しい知的所有権の概念が登場するまでは、 現行制度をだましだまし使っていくしかないのも事実である。