5Gの隙間にメッシュネットワーク

電波強けれどもつながり難し

昨年の夏の話であるが、横浜みなとみらい地区で6日間で200万人以上が参加したポケモンGOのイベントが開催された。しかし、残念ながら通信障害が起こって当初は満足にログインも出来なかった。モバイル基地局の接続数を超えたアクセスにより、電波強度は十分なのに通話、通信とも不通になった。スマホゲームが原因で、みなとみらい地区の通信インフラが飽和してしまったことに驚いたが、同様のことは1カ月前にシカゴ、グラント・パークで開催されたイベントでも発生していた。

通信事業者による対策が取られたとはいえ、一時的にでもゲームによって都市の通信インフラが麻痺してしまう事態を憂いていたのだが、先日も同じ状況に遭遇した。朝の通勤ラッシュの中、地下鉄が機器故障で止まり、その後地下駅構内で一切通信・通話ができなくなった。

離島や山岳などの電波の届かない地域とともに、都市部にもつながらない状況は存在している。

次世代通信で救われるか

◇5G

巷で話題の5Gに関しては前回のコラム「すぐそこにある5Gの課題」が詳しいので詳細は割愛するが、上述した都市部の圏外問題に対しては、接続可能台数の大幅な増加が有効だろう。2020年に向けて急ピッチで開発と設備投資を行っているようだが、4Gのカバレッジに達するにはさらにもう少し時間がかかるだろう。そして5Gは4Gよりさらに高周波数帯を使うので、建物の中や地下での通信については、よりきめ細かな基地局の設置が必要になりそうである。

5Gの普及を待つ間に、もう少し手軽な別の手段はないのだろうか。

◇LPWA

前回コラムでも触れているが、LPWAと称されるIoT向けに有望な広域ネットワークは通信帯域が数百bps程度しかなく、スマホでの通信には適さない。同様の通信方式にWi-Fi HaLowという、おなじみのWi-Fiを1kmまで通信距離を伸ばしたものがある。しかし、距離が伸びる分通信帯域は落ちるので、こちらもどちらかと言えばIoT向けである。

◇メッシュWi-Fi

Wi-Fi規格では最近メッシュWi-Fiに対応している無線LANルータ(例えばGoogle Wifi)が出回っている。こちらはWi-Fiの電波を中継する子機(アクセスポイント)を設置して、大幅に通信範囲を拡張するものである。一見、アクセスポイントさえ増設すればWi-Fiがどこまでも届くのかと思ってしまう。しかし、通常のWi-Fiと同様、アクセスポイントからの通信距離は短く、さらに製品メーカ毎に規格が異なり相互運用はできないため、実質的に屋内や施設内での利用に限られる。

メッシュネットワークの可能性

メッシュWi-Fiは大元になるアクセスポイント(親)にその電波を中継する子アクセスポイント(子)を従える構図になるが、これをピアツーピア通信(P2P)に置き換えられないだろうか。そうしたアクセスポイントの機能をスマホに実装して、相互にメッシュネットワーク(スマホメッシュネットワーク)を形成することができると、参加するユーザが多いほどそのメッシュネットワークの通信範囲が広がり、各スマホがインターネットに接続できるアップリンクが多くなるほど、インターネット向けの通信速度は上がるだろう。都市部に乱立する公衆無線LANのアクセスポイントをスマホメッシュネットワークに統合することができれば、現在でも混んでいる2.4GHzの無線帯域が整理できるメリットもある。

スマホメッシュネットワークの恩恵にあずかるのは都市部だけではない。すこし前の事例だが、トヨタのランドクルーザーを通信ノードにしてへき地でも通信できるようにする実験があった。これを応用すれば人口密集地以外のカバレッジも広がり、災害やライフラインの寸断にも対応できるようになる。類似の事例は、東日本大震災の経験を教訓に開発されたスマホdeリレーがある。通信サービスのない環境でもスマホ同士がメッセージをバケツリレーするものだが、これをネットワーク通信全般に広げられるとスマホメッシュネットワークになる。

スマホメッシュネットワークの課題

スマホメッシュネットワークの課題として、バッテリーの問題がある。以前よりはスマホの電池持ちは良くなったが、現在のスマホではメッシュネットワークの基盤機器としては不十分である。さらなるスマホの省電力化、発熱対策が求められる。そして、現時点では規制や通信事業者の契約条項など様々な制約があるため、スマホメッシュネットワークの立ち上げは容易ではない。また、このようなコミュニティタイプのネットワークは、一定以上のユーザが集まらなければ使い物にならない。逆に、大勢のユーザが一時的に集まる場所でアピールできれば、大いに普及する可能性もある。

5Gに新たな設備投資が必要になるなか、利益還元を求められているモバイルキャリア各社や、コモディティ化して価格競争に突入しつつあるスマホ端末メーカは、5G対応とともにメッシュネットワークのようなP2P技術を見直してはどうだろうか。既存の通信機能をP2Pで活用するというメリットがあり、新たなP2Pアプリの発展も見込める。また、新規参入する事業者は、目新しいサービスで他社との差別化を図り、既存のユーザとは異なる層の新規ユーザを獲得できるのではないか。個人的にはポケモンGOのP2P対応が楽しみだ。

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