すぐそこにある5Gの課題

先日、携帯電話の通信システムについて仕様を策定する団体である3GPP(Third Generation Partnership Project)では、5G NR(New Radio)と呼ばれる5G(第5世代移動通信システム)全体の標準仕様を固めた。過去の例では、仕様策定から2年程度で商用サービス開始に至っていることを考えると、2年後の2020年には5Gの商用サービスが開始される計算となる。実際、日本では東京オリンピックに間に合うように計画されており、2019年中には試験サービス、2020年前半には商用サービスが提供される予定だ。

そもそも5Gとは

5GとはFifth Generationの略称であり、第5世代移動通信システム(いわゆる携帯電話)のことである。現在主に使われている方式は3G(第3世代)と4G(第4世代)だが、3GはW-CDMA、4GはLTEの方式名で呼ばれている。一方、5Gには固有の方式名が無く、あえて言えば、前述の5G NRが方式名になる。

4Gと比較して5Gで何が変わるのかというと、これまでよりも高い周波数帯を使うため、1チャンネル当たりの帯域を広げることができる。具体的には、最大通信速度は4Gの10倍である10Gbps以上が実現される。数秒で映画一本分のデータが送れると言われるが、実際には多人数で分割して使い、電波の状況によって遅くなるため端末1台当たりでは100Mbps程度とされる。

また、通信速度以外にも、5Gではさまざまな技術的要件が決められている。例えば、静止状態での最大通信速度、高速移動時の接続性、遅延、接続可能な端末の密度、省電力性などの数値的な要件も定められている。いずれも4Gの10倍や1/10が数値目標になっている。その中でも、通信速度と遅延、接続数の3つの要素が5Gの大きな特徴になっている。

5Gの活用シーン

電波で情報を送る際にはシャノン限界と呼ばれる理論的な限界があるため、技術的な要件全てを同時に満たすことはできない。例えば、通信速度を向上には多くの帯域が必要であり、その分送信電力も必要になることから、通信速度と消費電力の両立はできない。そのため、ユースケースと呼ばれる利用者の使い方や環境を想定し、技術的な要素のバランスを取って実現することになる。

5Gの開発段階で検討されたユースケースとして、工作機器の制御や医療機器、車両などの遠隔操作がある。この場合には低遅延が求められ、有線ネットワークでも容易ではない1ミリ秒の低遅延を5Gで実現することが目標になる。加えて、機器を遠隔操作するために、機器に設置されたカメラから高精細な動画を送るニーズもある。実際に、5G経由でリアルタイムで操作できる建機ロボットなどが開発されている。

さらに、送られてきた画像をクラウドやエッジにあるAIエンジンで分析して、運転支援や自動運転の機能を実現する方法も期待されている。

ビジネス用途以外にもユースケースが検討されている。コンシューマ向けとしては、例えばスポーツやエンターテイメント用の屋内外の施設において、多数の観客やスタッフ向けに複数のカメラによる高精細映像をリアルタイムに送信するサービスが想定されている。施設内でリアルタイムのイベントを観覧するよりも、中継されるテレビ4K映像の方が高画質で付加される情報が多いという従来の課題を解決するために、会場内の5G端末に向けて様々な視点の高精細映像を送ったり、リアルタイムに処理して付加された情報を見られるARアプリを提供する、などが考えられるだろう。実際に、野球スタジアムでの実証試験も行われている。利用者が使うUIはヘッドマウントディスプレイとなっており、新しい使われ方であろう。

5Gのキラーアプリは?

過去を振り返ると、3G時代(2000年代)のキラーアプリは写真付のキャリアメールや携帯ブラウザ、着メロだった。また最近の4G時代(2010年代)になり、スマートフォンの普及と連動して、SNSや電子書籍・音楽・動画等のコンテンツ配信の利用が大幅に増えた。実際にトラフィックの分析結果からもそのような傾向が見られる。現在のトレンドから5Gのキラーアプリを予想すると、コンシューマ向けには、無料有料を含め4K/8Kの動画配信など高精細映像の配信が本命とされている。また、4GのキラーアプリであるSNSの使い方も、テキストから写真に、さらに動画に移行しつつある。例えば、最近若者に流行している中国生まれの動画共有アプリTikTokを見ると、動画をアップロードする時間やコストが削減されることで、動画共有が大きく伸びる可能性がある。

ビジネス用途としては、5GはIoT用途に使えると期待されている。IoTの活用分野としては製造業や交通分野が有望とされてきたものの、広く普及しているとは言いがたい状況である。データ取得にかかる手間やコストがその一因とされており、これまで取得できていなかったデータを収集、活用する方法として5Gが期待されている。低コストで使える通信方式としてLPWAもあるが、伝送速度が非常に遅く、エリアの広さを考えると、実際には通信事業者の3G/4G/5Gネットワークを使う方が早く確実に導入できる。問題はコストと消費電力ということになるが、IoT向けに開発されたNB-IoTと呼ばれるLTEから派生した方式を使うことで解決する。さらに、5Gが多くのエリアで使えるようになると、画像や動画を送ることができるようになり、映像による監視なども実現できる。

このような事例から、端末から送信される映像を使ったサービスが有望だ。例えば、クラウド側で端末の映像解析し、端末と連動した高精細なARアプリや、ドライブレコーダー代わりにスマートフォンで映像を取ることで運転の支援を行うなど、コンシューマ向けにもビジネス向けにも応用できそうだ。

5Gの課題

最初に述べたように、日本では2020年からの5G商用サービス開始が予定されている。5Gでは今までよりも高周波の電波を使うために電波が届きにくい。そのため広いエリアを5Gで面的にカバーすることは難しい。加えて、利用者が直接払ってくれる通信料金は、5Gだからと言って大幅に増えることはないと予想される。そのため、地方部や需要の少ないエリアでは通信事業者も設備投資を抑える可能性もある。そうした懸念から、2018年11月になって総務省では5Gの導入のための周波数の割当てに関する意見募集(パブリックコメント)を開始しており、開始後5年以内に全国エリアの50%以上のカバレッジを実現することを求めている。

4Gの導入・普及時には、通信需要の増加に対応する必要性もあり、また3Gで使用していた周波数帯に近い2GHz周辺の周波数だったこともあり、3Gの設備に追加する形で投資された。一方5Gの導入においては、新たに投資する通信事業者にとって、まったく新しい方式である5Gの投資を回収できるような仕組みが必要である。

短期的には、動画配信サービス事業者の売上から5G通信の高精細映像サービス向けのインフラを提供したり、IoTを中心としたビジネス利用を前提とした仮想的なネットワークを提供することで、通信費として徴収する方法が考えられる。また当面は、局所的に整備されたエリアであるスタジアムで従来とは違う体感が得られるVR/ARコンテンツなどを提供することで、通信費以外のコンテンツ利用、サービス利用料などを徴収する方式も検討すべきであろう。

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