100年に1度というよりは、これまで経験したことない経済危機が影響して、乗用車や住宅を始めモノが売れなくなっている。自動車の売上が急激に悪化する中で、カーシェアリングの利用が増えている。同じように、情報通信分野でもシステムをシェアする仕組み、つまり、サービス化されるものが増えている。
新しいMVNOの形態
1年程前にMVNOに関して述べたように、 有限である電波を使う関係で周波数割当を受けた通信事業者以外の市場への参入を促すために、MVNOの仕組みが採り入れられている。 現状では、イーモバイルのW-CDMAやUQコミュニケーションズが提供するWiMAXを利用するISPが増えた程度であり、以前にも挙げた、日本通信やディスニーモバイルなどあまり多くないのが実情である。
しかしながら、最近になって、周波数割り当てを受けている通信事業者が同業 他社の通信事業者とMVNO契約を結んで、設備やサービスをまるごと借り受けて、 サービスする事例(ソフトバンクによるイーモバイルのMVNOや、 ウィルコムによるドコモのMVNO)が増えている。 最近の事例で言うと、イーモバイルがドコモの音声サービスをローミングして いるように、設備投資ができていない一部の地域において業務提携という形で ローミング契約をするケースが従来からあったものの、通信事業者が、競合す る地域やサービスに関して他社から調達することは通常なかった。 そのため、周波数を割り当ててもらっている通信事業者自身が設備投資せずに 他社からサービスを借りているのは、おかしいのではないかという意見もある。 確かに、資金力のある大手通信事業者のみが投資することになってしまう可能性 もある。
しかしながら、自社が得意としない、所有していないサービスを借りることで、 既存の利用者へのサービスメニューを増やせるというメリットもある。もちろん、 他社から借りているサービスに関しては競争力がないということになる。 それでも利用者を確保するというメリットはある。
通信事業者は、今後3年程度の間に、データ通信需要の増加に合わせて、 LTEを中心に3.9Gとして新規に設備投資をする予定になっている。 導入から普及期にかけては、新たに投資する通信事業者にとっても、利用者を増やしたいという思いから、MVNOを活用することになると予想される。
SaaSからクラウドコンピューティングへ
ここ数年、SaaSやPaaSなどXaaSとしてまとめられる情報システムをサービス化する仕組みが進んでいる。SasSについては本コラムでも何度か取り上げられている。より進んだ仕組みとして、クラウド・コンピューティングがある。いずれも複数人数で共用するシステムを利用時間単位等で機能やサービスを提供する仕組みである。
クラウド・コンピューティングとは、システム構成図において雲のように表現 されるネットワークを通じて、サービスされる機能を提供する仕組みである。 サンマイクロシステムズが提唱していたユーティリティ・コンピューティング の概念を含み、また、技術としては、SaaSやグリッドコンピューティングや仮 想化技術を含むものである。
利用者からは、システムの実装方式について知らなくても、サービス利用のためのAPIのみを知っていればシステムを利用、あるいは、開発できるというものである。一から開発することなくサービスを利用できるため、開発にかかるイニシャルの費用面、時間面でのメリットが大きい。他の利用者も同様に利用する機能やシステムを共有していることを考えれば、利用者にとってはコスト削減効果がある。デメリットは、既に取り上げたように集中することによる不具合の影響だろう。実際に、2月に発生した不具合では世界中のサービスに影響を及ぼした事例もある。
課題は
MVNOにしてもクラウドコンピューティングにしても、システムを所有する事業者側からすれば、自社で直接提供しているサービスの基盤を貸し出し、システムをシェアすることにより稼働率を高くすることができるため、限界費用を低くすることができる。つまり、システムを運用するための固定費が大きいため、需要が増えた分に対してかかる費用が小さいため、利用者を増やすことにより利益を増やことが可能である。
一方では、利用者にとっては、サービスを借りる際に、サービスに対する対価はいくらが妥当なのかということを知ることはそれほど簡単ではない。もちろん、通常サービス提供にかかるコストに基づいて料金を決められるはずであり、システムが共用化されることで、コストが削減される可能性は高い。しかしながら、サービスレベルをどれぐらいにするのか、利用量がどれぐらいになるのか、など、始めてみないと分からないことも多いのも事実である。
さらに、一般的には、クラウドコンピューティングの利用料と、自社で開発・所有することで発生するコストを比較することで選択することになるが、必ずしもその比較だけ決めるのは正しくない。自社で所有する、つまり、自ら投資することで得られる利益とサービスを利用することで得られる利益を比較する必要がある。システムを自社で所有することで利益が増大するものでなければ、極論をすれば、費用として計上されるシステム、例えば、財務や顧客管理システムなどは、すべてクラウドコンピューティングに載せてしまう方法も考えられる。
最近のMVNOの事例にあるように、自分の得意としないサービスを外部から調達する通信事業者が増えていることを考えると、誰もシステムを所有しない、つまり、投資しないということは考えられないので、大規模なシステム基盤を開発、運用可能な事業者のみがシステムを所有する時代になる可能性もある。実際に、現在クラウドコンピューティングサービスを提供しているのは、GoogleやAmazonなど、自社の大規模システムにより実サービスを運用している事業者である。安価で安定的にサービスを提供するノウハウがないと成り立たない仕組みである。
さて、こうした仕組みを個人の活動に当てはめて考えると、不況だから当面の出費を減らそうという目的で先に挙げたカーシェアリングが注目されることもわかる。 しかしながら、モノを所有することの喜びや借りるための心理的な負担、機会損失なども加味され、数値ではなかなか表せない部分もあり、必ずしも合理的な判断基準が形成されているわけではないようだ。今後の個人消費は、欲しいモノがない時代からサービスを買う時代へ移行するのか、やはり欲しいモノを買う時代が続くのか、興味深いところだ。
本文中のリンク・関連リンク:
- 移動体通信事業者間のMVNO
- クラウドコンピューティングサービス
- Amazon EC2
- Google App Engine
- Windows Azure(マイクロソフト)
- 関連コラム
- MVNOは定着するか (2008/03/11)
- ITシステムの集中化とそのリスク(2008/04/15)