3Gに対応したiPhoneは携帯電話として新しいインタフェースなどに注目されているものの、現状ではスマートフォンとして認識されていることもあり、国内ではそれほど大きなシェアを確保できるいるとはいいがたい。今回は携帯電話としてではなく、パーソナルゲートウェイとしての新たな使い方に注目したい。
複数の無線通信方式の変換
携帯機器の中には、iPhoneのように3GとWiFiといった2つの無線ネットワークを使える端末が増えている。もちろん、3Gの端末としての利用や家庭内にある無線LANや公衆無線LANサービスにクライアントとして接続するのが通常の使い方である。
実は、2つのネットワークに接続できる機器では、ソフトウェアでプロトコルを変換するゲートウェイを作ることができる。例えば、3GとWiFiの通信機能を持つWindows Mobileで稼動するスマートフォンやiPhone用に通信方式を変換するソフトウェアが存在している。この場合は、IPでの通信をそのまま転送することになるルータ機能を実現し、3Gに複数の無線LANクライアントを接続できるようになる。カバーエリアの広い3Gを使うことで、どこでも無線LAN環境を個人で作ることができ、WiFi機能を持つ端末をインターネットにどこでもつなげられることを意味する。無線LANのホットスポットを探すよりも手軽だ。
通信事業者にとっての損得
当然のことながら、公衆無線網である3Gの定額制データ通信サービスが提供されていることがこのような使い方を可能にしている。これまで多くの通信事業者では、通常の使い方である携帯電話の端末および内蔵アプリケーションからのアクセスに限って、定額制を提供してきた。これは、PCからのアクセスになると、リッチコンテンツを始めとして、携帯電話よりも利用するデータ量が大幅に増加すると予想されているためである。例えば、3G各社の携帯電話のパケット定額制では、1人当り月間平均で数十MB〜100MB程度(約100万パケット)の通信量と言われている。一方では、PCによる接続の場合にも定額制を導入しているイーモバイルでは、一人当り月間平均1.4GBの通信量を使用しているという数値もある。
そのため、通信事業者としてはデータカードを使用する高額な料金体系を別途用意している。このような使い方の場合には、本来端末ごとにパケット通信の使用料が発生するはずにも関わらず、1台で集約されてしまう。また、無線LANとして通信されるデータについても公衆網を経由することになり、定額制のまま通信量のみが増加することになる。そこで、携帯電話のアプリケーションから通信しているように見えても、公式にはこのような使い方は認めていないケースもある。
端末が持つWiFi機能の本来の使い方としては、このような無線LAN基地局となって公衆無線網に負荷のかかる使い方ではなく、無線LANクライアントとなって、3G側のトラフィックを有線ネットワーク側に流すことである。実際、通信設備に余裕がない事業者は家庭向けに無線LAN基地局を安価で提供している。また、これから本格的な普及が見込まれるフェムトセルは、利用者の通信料削減だでけだなく、大幅に増加すると予測されるデータ通信を収容することも目的としている。
さらに、次世代の無線通信方式として注目されているWiMAXはカバーエリアや移動時の通信速度等のサービス内容については不透明である。そこで、最も普及している無線方式WiFiを利用して、3G経由でのワイヤレス通信サービスとの併用でカバーエリアを稼ぐ方式ありそうだ。
通信事業者にとっては、ユーザに対するサービス向上には寄与するものの、ヘビーユーザに対する値引きにしかならない恐れがある。そのため、有線による接続サービスとセットにするなどの工夫が必要だ。
近距離無線通信向けインターネット接続
WiFiと3Gのネットワーク機能を持つ端末は多いが、実は、Bluetoothを使える携帯電話が多数販売されている。日本ではあまり利用率が高いとは言えないものの、海外ではワイヤレスのイヤホンマイク用として使われている。Bluetoothはデータ通信にも利用することができ、Bluetoothによる通信を変換して、3G経由でインターネットに接続可能になっている。ただし、Bluetooth 2.0でも2Mbps程度であるので、ブラウザ等によるインターネットアクセスには不十分な値であるが、3Gの通信速度を考慮すれば許容できる値だ。
このようにインターネットにつなげられる機能を提供する機器は、パーソナルゲートウェイと呼ばれており、ここで作られるネットワークはLAN(Local Area Network)よりも小さなネットワークという意味で、PAN(Personal Area Network)あるいはBAN(Body Area Network)と表現される。
パーソナルゲートウェイは、インターネットに接続したいデバイスを無線で簡単に接続可能にする役割を果たしている。BluetoothやZigBeeといった安価な通信方式でもインターネットに接続可能にする点で価値が高い。さらに、機器は小型で持ち歩けるものであり、場所の制約がなくなり、より便利に使える。今後、パーソナルゲートウェイとしての様々な使い方が期待される。
本文中のリンク・関連リンク:
- スマートフォン向けルータソフトウェア
- モバイル型無線ルータ
- PHS300 Mobile WiFi AccessPoint(Cradle Point社)
- ワイヤレスゲート(トリプレットゲート社)
- フェムトセル (2007年8月より)