携帯電話の人口カバー率が100%になったにも関わらず、 以前として通話できないエリアが多数存在する。 電波が届かない所の代表例として、地下街やビル内部がある。 既に大部分の人は満足できる範囲をカバーしているとも言えるが、 そうした電波の不感地帯向けの技術が注目を浴びている。 今回は無線通信のサービス指標について考えたい。
人口カバー率だけでは判断できない
大手3社の携帯電話事業者の人口カバー率はいずれも95%を超えており、使えるエリアに本来はほとんど差はないはずである。 しかしながら、エリアの違いが利用者にとって事業者選択の基準の一つになっているのも事実である。 使っている周波数帯や通信方式が異なっているせいもあり、人口カバー率が利用者の実態を表さなくなっている。
そもそも、携帯電話事業者の公表している人口カバー率とは、市町村の役所がエリア内にあれば、その市町村の人口全てに対してサービスできるものとして、人口カバー率として算入されている。極端な例を挙げれば、地方の市役所の近くに基地局を設置するばいいということになる。 そのため、人口カバー率が100%になっても、市街地を外れた場所や山間部では通話できないことも多い。
フェムトセル導入へ
3G携帯電話用にフェムトセルと呼ばれる技術が脚光を浴びている。 フェムト(Femuto) とは1/1000兆(10-15)を表すもので、 マイクロ(1/100万 = 10-6)、ナノ(1/10億)、ピコ(1/1兆)という順に、 小さいことを表すものだ。
携帯電話のシステムでは、出力電力や容量等が異なる種類の基地局を複数使っている。 現在は、郊外向けに数km〜10km程度をカバーするマクロセル、 1km以下のカバー範囲で分割したマイクロセルの2種類の基地局を使っている。 一方で、PHSの場合には、電波の出力が小さいため、数百m以下をカバーするため、 マイクロセルより小さいことを表すピコセルと呼ばれている。
これまでも地下街向けに特別な屋内向けの基地局を用意していたものの、 機器はあまり変わらないため、コスト的にはかなりの負担が生じていた。 利用者の声に答えて多額の費用をかけて整備していたの実情である。 あるいは、基地局ではなくリピータという電波を再送信するための安価な設備を用意していた。通信回線を用意しないため安価だが、容量が増えるわけではないことや通信エリアに入っていない場所には設置できない。
そこで、無線LANとほぼ同じように数十mの範囲で通信エリアを提供する基地局が開発されている。フェムトセルと呼ばれており、屋内向けの基地局である。 従来の基地局と異なるのは、数十万円程度と非常に安価な機器であることと、簡単に設定できることである。 事業者の専用回線ではなく、通常のADSLやFTTHのような通常の通信回線が利用可能になっている点も大きな違いである。 ただし、現行の法律(電波法、電気通信事業法)では、基地局の設置には事業者の技術者が作業する必要があり、勝手に設置したり、操作することはできないため、無線LANの基地局のように自由に設置することはできない。
携帯電話のサービス指標を示すべき
こうした新たな基地局の設置には当然コストもかかるため、通信事業者としては評価されないのであれば、設置したくないはずだ。 利用者としても人口カバー率では判断できないとすれば、新たな指標が示されることが望ましい。 まず、考えられるのは面積カバー率でであるが、山地の多い日本ではあまり現実的な数値にはならない。 そこで、1平方kmのメッシュ単位の人口密度に関する統計情報はあるので、カバーする面積と地域別の人口密度を乗算することで、本来の人口カバー率が示せるはずである。
人口の少ない地域は、通話も少ない地域であり、単純に基地局を設置するのは非効率とも言える。携帯電話の場合には、移動している利用者へのサービスも考える必要がある。そこで、通信事業者も鉄道や国道沿いや観光客の多いエリアを中心に基地局を設置している。そこで、例えば、新幹線や高速道路といった路線沿いエリアカバー率というのを示してみてはどうだろうか。トンネル内で電波が切れないことも大きなアピールポイントにもなる。
また、地下鉄の駅や地下街、ビル内部のエリアカバー率はどのように測定するのかという問題もある。延べ床面積をベースに実際の電波のカバー率を測定する方法が考えられるものの、通信事業者としては個々の建物に対して測定するのは負担が大きいだろう。 いずれも狭い空間でもあり、エリアをカバーしてもあまり評価されない可能性もある。 電波が届きにくいところを報告してもらってサービス向上を図るというのが現実的だ。一方では、最大の通信速度は通信方式の理論値で決まっているため評価は簡単であるが、 実際に各利用者がどの速度で通信できるかはベストエフォートというだけで、 あまり公表されていない。現実には、3.6MbpsのW-CDMAのHSDPA方式でも1Mbps程度である。同じセル内で通信する利用者が多ければ、それだけ低下する。パケット定額制が普及して利用者間の差が大きくなっている。
さらに、個人用に携帯電話のサービス指標として、エリアと通信速度で評価できるように、GPSのデータ等を利用して、個人の行動に合わせて指標を測定できるようなサービスを用意してはどうだろう。この指標に合わせて、通話料金等が変わってもいいのではないだろうか。
本文中のリンク・関連リンク:
- 人口カバー率100%を実現(NTTドコモ)
- 全国基地局数46000局突破(ソフトバンクモバイル)
- MNP時の事業者選択(弊社と楽天リサーチとの共同アンケート調査)
- ホームアンテナの配布(ソフトバンクモバイル)
- フェムトセル導入(NTTドコモ)
- 携帯電話用及びPHS用小電力レピータの導入に向けて (総務省)
- 聞かせてFOMAの電波状況(NTTドコモ)