システムの使い勝手を評価するふたつの方法[後編]

さて、前編では、なぜ企業内の情報システムは操作性が軽視されているかについて論じた。 そしてその原因のひとつに、システムのユーザビリティを数値で表す方法が一般化されていないことがあるという点を指摘した。 後編では、システムのユーザビリティを数値で表す方法を紹介しよう。

(前編はこちら)

ふたつの大きな分類

ユーザの操作に基づいてユーザインタフェースを評価する方法には、 大きく分けてふたつの方法がある。 ひとつは、システムの操作に関する客観的なデータを用いる方法、 そしてもうひとつはユーザの考えを数値化する主観的評価手法である。

いずれも一長一短ある評価方法であり、使い分けることが肝要である。 評価目的として研究指向が強いときは、恣意的な要素の入りにくい前者が好まれがちである。 実際に、ユーザインタフェース評価の研究では、近年は、生理指標を採り入れた客観的評価指標を重視する傾向にある。 一方で、実際にシステムを利用する現場への適用を想定すると、ユーザの操作感を直接反映する主観評価が効果的なことも多い。

なおユーザによる実際の操作を評価する方法の他、チェックシートを用いる方法や、 専門家によるレビュー法などもある。

客観的なデータの取り方

客観的評価をするためのデータを取る方法としては、 キーボード操作のログやマウスカーソル動作の記録などシステム側の挙動を記録する方法と、 ユーザに計測装置を取り付けて、ユーザの動作を記録する方法がある。 ユーザの生理的な変化を直接測定する方法には、 視線計測装置を用いてユーザが操作時に注視している箇所を記録するレベルから、 心電図や脳波計を用いてユーザの心理状態を推定しようとするレベルの試みまで、 様々な手法が研究されている。 ただし疲労やストレスといった高度な心理状態を心電図や脳波から正確に推定する方法はまだ解明されておらず、 これらの結果だけをそのまま客観評価データに用いることは難しい。

ユーザの動作を直接記録する方法を補う手法として、 観察者がユーザの操作状態を記録する方法もある。実際にユーザが操作する状況を、 背後から観察者が逐一記録する手法である。この方法も効果的ではあるが、 客観的な分析を行うには長時間の観察と分析が必要なため、 実施には相応のコストがかかる。

なおシステムの使い勝手を評価するための客観的なデータを、 業務中に測定することはなかなか難しい。操作のログを取るためにシステムを改変したり、 測定装置を業務の現場に持ち込んで、操作の様子を測定したりといった作業は、 なかなか困難だからだ。そこでユーザビリティのテストでは、 実験室に設置した仮想的な装置を対象とすることが多い。

ユーザによる主観的評価

一方、質問紙を用いた主観的評価も、 ユーザの心理状態を推定し、感性的な評価データを集める手法として、広く利用されている。 代表的な手法に、QUIS (QUestionnaire for Interactive Systems)法SD (Semantic Differential)法がある。

QUIS法は、システムの操作性や提供される情報の分かりやすさ、学習のしやすさ、 といったシステムのユーザビリティに関する様々な項目を、 直接、ユーザ本人が10段階評価することでシステムの総合的な使い勝手を判定する方法である。 またSD法は、多数の形容詞対(例えば、「大胆な — 繊細な」、「かたい — やわらかい」 というような、反対の意味を持つ形容詞(形容動詞)の組合せ)を並べ、 それぞれの形容詞のどちらにより近いかを記入してもらうことで、 対象物の印象を測る主観評価手法である。 通常は、SD法で集められたデータを因子分析し、 形容詞対の組合せからシステムの印象を定める因子を抽出してその性質を議論する。

次の図は、ある革新的なユーザインタフェースと既存のインタフェースについて、 SD法で比較した結果だ。 この結果から、ユーザは新しいインタフェースに新規性と面白さを見出していることを読み取ることができる。

SD法によるプロファイル 分析のサンプル

ユーザビリティ配慮の効果

このような方法によれば、システムの使い勝手を数値化し、 その得失を比較することは可能となる。 業務システムの場合には、 「それがどれだけビジネスに影響を及ぼすか」をきちんと評価する必要があろう。

CS (Costomer Satisfaction, 顧客満足)の概念を語るときに ES (Employee Satisfaction, 従業員満足)を無視できないことと同様、 企業が提供するシステムに関して、外向きのシステムだけ体裁を整えておけばよかった時代は、もう終わった。 これからは内部のシステム、業務システムに関しても、使い勝手を配慮する必要があるだろう。全てのシステムにおいて、ユーザビリティの高さが競争力の源泉となるのだ。

  • 米国Maryland大学で開発されたQUIS (QUestionnaire for Interactive Systems)法のウェブサイト(英語)
  • SD (Semantic Differential)法は、 心理評価を必要とする様々な研究で利用されている尺度構成法である。
  • 下記文献にも面白い事例が紹介されている。
    • 細野 直恒、「感性官能評価を適用したユーザ中心設計」、沖テクニカルレビュー第199号、Vol.71 No.3, 2004年7月