ウェブ・ユーザビリティ温故知新

ユーザビリティ研究の第一人者、ヤコブ・ニールセンが2000年に出版した 「ウェブ・ユーザビリティ 顧客を逃さないサイトづくりの秘訣」 という書籍がある。この書籍を、最近、故あって読み直す機会があった。 ドッグイヤーといわれるIT業界において6年も前の出版物は、 もはや古典と呼ぶべきかもしれない。しかし、 そこで述べられている指摘は一部を除いて今でも十分に通用することに気づき、 たいへん驚いた。

6年前のアドバイス

本書の前半では、ページデザイン、コンテンツデザイン、サイトデザインといった、 WWWによる情報提供方法のデザイン面からの効率性が論じられている。そして後半では、 アクセシビリティや国際化といったWWWシステムに特有のユーザビリティが論じられ、 最後に「シンプル・イズ・ベスト」とまとめられている。

さて、とくに前半のデザイン論について、 「本書で指摘されている項目は、今では当り前の事実になっているだろう」 と考えるのはごく自然なことだろう。 なにしろ6年も前の指摘なのだから。 ところが、これらのコメントは今でも十分に有効なのだ。 すなわち、6年前にこのような有意義なアドバイスがあったにも関わらず、 ユーザビリティをないがしろにしたウェブデザインが蔓延っているということである。

いまだ有効な改善ポイント

例を挙げよう。 本書ではウェブコンテンツの表現には、ウェブサイト特有の見せ方があるという。 つまりウェブのコンテンツは雑誌のページやTV番組の単純な置き換えではなく、 ウェブコンテンツにとって最適化されたデザイン手法があるということだ。

具体的には、 スクロールが必要になるほど縦に長いコンテンツはそれだけで読む気を失わせるとか、 コントラストや配色に、より十分な意識を払う必要がある、といった点である。 ディスプレイについては、現在、高解像度ディスプレイが一般的になり、 そこに表示される情報の視認性は向上した。 ディスプレイの高解像度化は当時と比べると格段に進化し、 さらにこのような高解像度ディスプレイの普及も進んだとはいえ、 いまだ紙を置き換えるところまでは進化していない。

こういったお作法を知らないで制作されたウェブサイトが、いまだ巷に溢れている。

進化したこと

もちろんいくつかの点については、現在の状況にあてはまらないこともある。

ひとつは、ネットワーク環境に関連する指摘である。 本書によれば、 ネットワークからコンテンツをダウンロードする時間の多寡がユーザビリティに多大な影響を及ぼすため、 画像を含むマルチメディア素材の使用は工夫すべし、という。 しかしADSLや光接続が一般的になった現在では、これらの配慮はあまり気にする必要はない。 (※ ただしこのことについても 「未来の予測」という章できちんと時期を含めて正しく予測されており、 まさにニールセン先生の炯眼には恐れ入るばかりだ。)

もうひとつは、ブログ(blog)CMS (Contents Management System)の一般化である。 本書ではこれらのコンテンツ管理ツールの利用にはほとんど触れられておらず、 コンテンツ作成者が自らデザインを気にすべしというスタンスで解説が加えられている。

これらのツールは、ウェブコンテンツの見せ方を画一化した。 情報提供者はコンテンツそのものの記述に注力するだけでよく、 デザインに関してはツールの開発者や、 各ツールが提供するプレゼンテーション部分の作成者だけが気にすればよいようになった。 ほとんどのブログやCMSツールでは、見せ方のデザイン部分を、 テーマやスキンと呼ばれる交換可能なモジュールで調整できるようになっているからである。

隗より始めよ

本書で述べられている改善点の多くは今でも有効なので、 ウェブ関係の仕事に就いているクリエイターのうちまだ本書を読んでいない方がいれば、 ぜひとも一読をお薦めしたい。

ところでこの「週刊 Take IT Easy」も、1998年の12月にスタートして今月で満8年になる。 その間、デザインが全く変えられていない。 これでは紺屋の白袴、 あるいは医者の不養生のそしりは免れないといえまいか。 確固たるスタイルを確立することも重要だが、 ユーザビリティの観点からきちんと評価して、 効果的なデザインを採用すべきだろう。

というわけで本コラム編集長と執筆陣の皆に相談です。 そろそろリニューアルしてみませんか? (※2 とりあえず本文中の<a>タグ(ハイパーリンク)に、title属性を付けてみた。 リンクしている単語の上にマウスポインタを置いてみよう!)