ソフトウェアの互換性問題 〜完全互換戦略の功罪〜

ソフトウェアはデータが命。ネットワーク時代の昨今では、そのアプリケーションに対応したデータが流通することにより当該ソフトウェアのユーザが増え、市場におけるシェアが増す。そしてユーザが増えれば流通するデータがさらに増えるという、拡大サイクルが回るのだ。

オフィス・スイートの例

具体的な例を挙げてみよう。

皆さんがお使いのオフィス・スイート(生産性ソフトウェア)は現在、MS
Officeが圧倒的なシェアを誇っている。ちょっとした文書から、数十〜数百ページにおよぶ書類、表計算シート、プレゼンテーション資料など、オフィスで利用するあらゆる書類の電子データがMS
Office文書の形式でやりとりされている。その状況を支えている、あるいはそれが故に成立している数字が、オフィス・スイート市場におけるMS
Officeのシェアである。

さてこの状況で、そのシェアを切り崩しにかかろうとしているソフトウェアが、いま注目を浴びているオープンソースソフトウェア(OSS)のOpenOffice.org(OOo)である。OSSなので高いライセンス料を払わずに導入できることから、主にコストメリットを強調されることが多い。しかしシェアをとるのはなかなか簡単ではなく、まだまだ爆発的にユーザが増えているというほどには普及が進んでいない。

後発の悩み

こで重要になるポイントは、OOoがMS Officeの文書ファイルをどれだけ精確に扱うことができるか?
という点である。冒頭で述べたように、既にデータの側がアプリケーション選択の主導権を握っているからだ。もちろんOOoはMS
Officeの文書データを読み書きできるように作られてはいる。しかし完全互換というわけではない。

またユーザインタフェースの問題もある。

一般に多くの利用者は保守的であり、一度、覚えた操作方法をチャラにして、また新しい操作方法を一から学びなおすことには強い抵抗を示す。これらの点が、アプリケーション移行に対する大きな障壁となっており、いまのところはこれらの障壁がコストメリットを上まわるため、なかなか移行に踏み切れないと考える人が多いようだ。

完全互換はそもそも可能か?

さてこのようにソフトウェア製品には、他の製品と比較しても、技術によるロックイン(利用者を囲い込むこと)の可能性が高いという特徴がある。このことを踏まえ、不当なロックインを生じさせないような状況にするために、標準への完全な準拠や完全互換の実現可能性を考えてみよう。

たしかに、市場原理に基づく健全な競争を実現するために、標準を定めてそれに従って各ベンダが切瑳琢磨するべし、というのは正論である。しかし、実際にはなかなか理想的にはいかず、ソフトウェアの場合、そもそもアプリオリに与えられた標準に従う完全互換状態を実現し得るのかという、根本的な問題がある(
参考「デジュール標準は市場制覇の夢を見るか?」)

完全互換戦略の落し穴

また後発のソフトウェアがシェアを取るために、移行時のスイッチングコストを低減することを目的として、機能や操作性、ユーザインタフェースのデザインまで含めて、既存製品の完全互換を目指すべきであるという主張がある。ここで完全互換を実現するとは、ソフトウェアのバグまで含めて完全に同等の機能・操作性を提示するという非常にラディカルな意見である。

完全互換戦略は、先発ソフトウェアとの完全互換を実現することによって、他の要素よって移行のメリットを示すことができるはずだという考え方である。例えば先のOOoの例でいえば、MS
Officeの完全互換を実現すれば、コストメリットが効いて来るため移行が促進されるだろうという主張である。

実はこの考えを実際に押し進めて市場シェアを確保したのが、マイクロソフト であった。

ひとつ例を示そう。

MS Excelの日付計算には、本来存在しないはずの1900年2月29日が存在するのだ。詳しくは「インストラクターのネタ帳:存在しないはずの1900年2月29日が存在する」を参照して頂くとして、マイクロソフトの説明によれば、「他の表計算ソフトとの互換性を満たすよう」このようになっているということである。これは先に述べた「バグまで含めて完全互換戦略」以外のナニモノでもない。

オープン・クエスチョン

データの互換性がアプリケーション選択の大きな鍵を握るようになっている現在、データ互換戦略は後発ソフトウェアには不可欠な戦略である。しかし先に述べたように、完全互換戦略はソフトウェアの汚点を未来永劫ひきずる戦略でもある。

さて今回のコラム、あえて結論を出さずに終わらせてみたい。
「読者の皆さんは、この問題について、どう考えますか?」