Web の信頼性とは何か ?

前回の筆者のコラム 「blog は Web 2.0 を牽引するか?」でも指摘したように、
個人が情報発信できる仕組みが整備されることと、 ロングテールという言葉に代表される多様な価値観を共有できる環境の間には、
いまだギャップがある。 その課題のひとつがコンテンツの信頼性をどのように判断するか、である。
従来、情報の信頼性とは、実質的に発行主体(組織あるいは人) の信頼性に帰着するものであり、例えば、
百科辞典や新聞に書いてあることは信頼できる、 テレビニュースは信頼できる、といった判断基準であった。
しかしながら今後、コンテンツの発行者はますます多様化していく。
個人レベルでのパブリッシングであれば、当然信頼に値しない情報も多い一方、 大手メディアには載らないような価値ある情報も多い。

今回は、どうやってコンテンツが信頼できるものであることを知ることができるのか、 という点をより具体的に考えてみよう。

サイトの信頼性

コンテンツが信頼できる、できないというとき、 まず頭に浮かぶのはそのコンテンツの著者、
あるいはそのサイトの運営主体が信頼できるか否かであろう。 私たちは通常、
大手報道メディアやその分野の著名人が運営するサイトのコンテンツは信頼できると考えている。
だが、インターネット上のコンテンツに関してはいえば、 必ずしもそれだけではないだろう。
実際、あまり有名なサイトでなくても信頼するに足る有用なサイトはたくさんあるし、
逆に有名でよくリンクされているサイトでも自分自身はあまり信頼していないというサイトもたくさんある。

スタンフォード大学の Persuasive Technology Lab
では、ウェブサイトの信頼性に関して、過去数千人に及ぶ被験者の実験を通じて、 独自のPI理論(Prominence-Interpretation Theory)を展開している。
PI理論では、Webサイトの信頼性とは、Prominence、すなわち、 サイト自体の突出度合い(サイト自体が目立つかどうか、
ユーザに価値ある情報を提供しているかどうか、 そしてユーザからみて見つけやすいかどうか) と
Interpretation、すなわちそのサイトに対して、 ユーザがどのように判断するかの積としてあらわすことができるという。
Prominenceはいわばサイト自体に対する一般的な評価と見ることもでき、 これは例えば被リンク数が多いとか、
著名な組織によって運用されているといったことで表すこともできるだろう。 また、 Interpretation
は、ユーザ自体が自身の過去の経験や知識と照らし合わせて、 そのサイトをどのように判断するかということである。
PI理論では、Prominence、Interpretation をさらに細かい要素に分解して、
信頼性の定量化を試みている。詳細はここでは触れないが、 サイトが有名であるとか著者がオーソリティである、ということだけではなく、
ユーザの背景や知識、解釈もまた、 Webの信頼性に大きな影響を及ぼしているというのがそのエッセンスである。 つまり、Web
の信頼性は客観的な指標ではなく、 ユーザやその目的によってそれぞれ異なる指標であるということだ。

また、同じスタンフォードのグループでは、 信頼性のためのガイドラインを公表している。 リンク切れをなくせ、実組織の存在を示せ、更新を頻繁にせよ、

では、信頼性の高いサイトやコンテンツを見つけるにはどうしたらいいのだろうか。 Prominenceの高い情報を見出すには、
ユーザの要求に対してどの程度の情報量を提供しうるか、 といった観点からの検索機能、ガイダンス機能が望まれる。また、
Interpretation が高くなるような情報を見出すには、 パーソナライズされた検索エンジンが必要であると共に、
ソーシャルネットワークによる集団知というものも今後有望と考えられる。

集団知の信頼性

ジェームズ・スロウィッキーの「The Wisdom of Crowds」 (邦訳:「みんなの意見は案外正しい」) という本が話題になっている。本のタイトルを字義通りに解釈すれば、
個々の意見は正しくないこともあるが、多くの人がいう意見はおおむね正しい、 となる。
しかし、スロウィッキーによれば、「みんなの意見」が正しいためには、 いくつかの条件があり、
個々の意見表明が独立であること、多様性に富んでいること、 そして意見集約のシステムが整備されていることなどが条件として挙げられている。
そして、これらの条件が満たされるとき、 「みんなの意見」は集団知となるのである。 逆にいえば、
誰か一人がいっていることをそのまま鵜呑みにしてブログにみんなが書いても、 それは集団知とはいえないのである。

一方、この集団知をコンテンツのフィルタリングやランキングに応用しようという先進的取り組みがいくつかある。 OutFoxedeurekster といった新しい試みは、
ソーシャルネットワークの中で信頼できるコンテンツを見つけて共有していこうというものであり、
同じ興味を持った人たちがどのようなコンテンツを信頼できると評価しているのかを明らかにし、そしてこれらがランキングとして反映されるような検索機能の実現を目指している。
ソーシャルブックマーキングも同様の試みであるともいえる。 信頼性の定義は文脈(ユーザの置かれた状況や目的)によって異なるので、
こうしたソーシャルネットワークとからめた信頼性の考え方は今後重要になるであろう。
極端なことをいえば、世間一般ではトンデモ情報であっても、 ある文脈においては、信頼できるコンテンツともなりうるのである。 そしてこれが
Web 2.0が目指す世界でもある。

情報の「信頼性」と意識の改革

実は上で書いてきた「信頼性」は、“Credibility”のつもりである。 同じ信頼性と訳される単語に“Trust”があり、
情報自体の根拠や発信者の認証をも含むややフォーマルな研究分野もある。 情報やその流通に意味づけを行うことにより、
信頼性を担保していこうというのも Semantic Web の基本的な考え方である。 Trust
を信頼性と訳すならば、Credibilityは有用性と訳す方が良いのかもしれない。
いずれにしても、次世代の情報パブリケーションにおいては、 従来のような情報に対する信頼性の概念は大きく変わっていく。
どのように信頼性を確保するのかという手段も大事であると共に、 そもそも信頼できるとは何か、
そして今どのレベルまでの信頼度が求められているのか、 といった部分もまた今後検討が進められていく必要がある。
これらはまた技術だけで解決する問題ではない。 前コラムでも述べたように、リテラシの変革もまた必要である。 さらに大げさにいえば、
情報の正しさや信頼性というものに対する意識改革もまた必要になってくるのではないだろうか。