総務省の2006年4月13日 報道発表データによれば、 blog、SNS の2006年3月末時点の登録者数はそれぞれ868万人、 716万人ととなっている。 2005年9月末のデータでは、それぞれ473万、399万であったから、 調査時の対象事業者は異なるものの、 ここ半年、一年で大きく利用者が増えて来ていることは間違いない。 2005年3月時点の総務省の予測では、2年後(2007年3月)の blog 利用者を 782万と予測していたので、わずか1年でその予測を上回ったことになる。
参加者を中心に進化する “Web 2.0″
このように拡大する blog、SNSであるが、その大きな共通の特徴として、 個人が能動的に情報を発信し、コミュニケーションをとっていくことがあげられている。 むろんこうしたことは、今までも個人ホームページなどで可能ではあったが、 時系列的な情報発信により、トレンド情報などを的確につかみやすいこと、 インタフェース的に敷居が低くなり、より多くの人が参加できる形態に変化 してきたことが今までの個人情報発信と比較した際の特徴となっている。
このような blog、SNS などの形態を含む次世代の Web は web 2.0 として 呼ばれることが多くなってきた。Web 2.0 は次世代 web 形態の概念的な総称 と考えたほうがよいので、はっきりとした定義があるわけではないのだが、 従来のサービスサイド、ユーザサイドといった固定的な枠組みではなく、 web 全体が参加者すべてのコミュニケーションプラットフォームとして 進化していく枠組みというのが中心的なコンセプトであろう。 といっても非常にわかりにくいのだが、 有名な Tim O’Reilly の Web 2.0 meme map から、いくつかキーワードを拾ってみると、 「プラットフォームとしての web」、「情報の個人管理」、 「パッケージではなくサービスソフトウェア」、「参加型アーキテクチャ」、 「再構成可能」、「集団知識」といったものがある。 なんとなくその意図するところがイメージできるだろうか ? 要するに、Web 2.0 は、敷居が低くて誰もが参加でき、 そして、参加者(ユーザ)を中心に進化する web なのである (と筆者は理解している)。これを端的にあらわすものとして、 「ロングテール」という言葉がよく用いられている(下図参照)。つまり、 従来のマーケティングでは見向きもされなかったようなニッチな情報や市場などが、 Web 2.0 のプラットフォームにより、コストをかけることなく、全体として大きなボリュームを持つようになる、というのだ。
blog の延長線上に集団知はあるか ?
さて、blog、SNSの潮流は、いうまでもなく世界的な趨勢であるのだが、 この流れがそのまま Web 2.0 の目指す世界へつながるのだろうか ? つまり、blog、SNS(あるいはその他の Web 2.0 を意識したコミュニケーションツール) により、誰もが簡単に情報発信を行うことができ、それにより、 新しい知の連鎖が生まれ、新しいマーケットが開拓されるのだろうか ?
たとえばはてなに見られるように、 参加者間で blog やブックマークを共有( ソーシャルブックマーク )し、今何が話題なのか、 何がトレンドになっているのかを把握するようなサービスがある。 これらは、参加者による集団知であることには相違ないのだが、 Web 2.0 が目指す世界とはまだ大きなギャップがあるようにも思える。
まず、第一にはすでにこのコラムでも何度か述べているような検索技術の問題だ。 現在の検索エンジンは、 基本的には誰もが有益であると考える情報が上位にランキングされるようになっている。 参加者が発信するロングテールの情報が検索エンジンのインデキシングに 含まれていたとしても、検索エンジンで上位にランキングされない限りは、 決して見つけることはできない。むしろ、ロングテールどころか、 ランキング上位のものに皆が集中的に集まることによって かえってテールが細くなってしまう恐れすらある。
次に、情報を発信する側、それを見る側のリテラシの問題がある。 blog にある情報を結集して集団知を得ようとするのであれば、 独自に情報を拾え、あるいは独自にそれを解釈し、 またそれを広く理解できる形で表現できる力量のある人が必要になってくる。 資質や能力といったもののほかに、blog というメディアに対する慣れも必要である。 また、情報を見る側からしても、 個人が発信する誤った情報も含めて価値判断できるようなリテラシが必要である。 現在の私たちは(筆者も含めて)、何かわからないことがあると、 まずは検索エンジンに尋ねてみるといういわば「検索エンジン依存症」である。 インターネットの情報は、それが何であるかを知るにはよいが、 ネット上の情報に自身の考え方までもゆだねてしまうのは危険である。 それができないと、同じような意見、コメントばかりがあふれかえってしまう。 これもまたかえってテールを細くしてしまう状況だ。
Web 2.0 への道
このように見ていくと、blog や SNSの拡大は、 確かに Web 2.0 が目指すように、より多くの人が参加し、 情報発信できるプラットフォームとしては整備されつつあるけれど、 単にそれだけでは、 ロングテールどころかむしろテールを短くしてしまう危険すらあるということだ。
技術的な課題はすでに上で述べたが、 実は技術的な問題よりもむしろリテラシや文化的側面の方が大きいようにも思う。 特に日本では、多様性を求めるよりも、 むしろみんなが同じテレビ番組や同じ本の話題で盛り上がっていたほうが安心できるという心理がある(とされていた)。もともと多様な価値観や文化が共存する米国等との大きな相違である。 こうした心理的側面が変化していくのには時間がかかるものかもしれない。
かつて(今も?)ネットワーク社会は、従来にもまして栄えるものは栄え、 廃れるものはより廃れるといった「勝ち組、負け組」を顕著化するといわれてきた。 Web 2.0 が目指すものは、多様な価値観を許容し、柔軟な変化に対応できる世界だ。 つまり、ロングテール自体に市場価値を見出すことができるだけでなく、 勝ち組であるヒット商品もダイナミックかつ柔軟に変わり得る可能性を持っている。 blog、SNS が増えているから Web 2.0 の世界が近付いている、 と考えるのは早計ではあるが、 この流れは新しいプラットフォームへの確かな潮流であることは間違いない。 この中から、今までと違った情報がどんな形で発信されているのか、 どのようなコミュニティが生成されているのか、あるいは どんなヒット商品が生まれているのか、今後の動向を注視したい。
本文中のリンク・関連リンク:
- 総務省 2006年4月13日報道発表データ 「ブログ及び SNS の登録者数(2006年3月末現在)」
- Tim O’Reilly: What Is Web 2.0, Design Patterns and Business Models
for the Next Generation of Software
[その和訳] (CNET Japan)
Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(前編)
Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(後編) - はてな
- Web 2.0 conference