さようならAIBOその「功」と「罪」

とうとうソニーはペットロボット 「AIBO」の製造を打ち切るそうだ。 このニュースには人一倍感慨深いものがある。
実は、本コラムの第1回(1998年12月1日)は 『ペットロボット−愛嬌の仕掛け−』だからである。 このコラムを始めるきっかけの一つが
「ペットロボットがもうすぐ登場する。 これは絶対にすごい。なぜすごいのか、背景も含めてみんなに知って欲しい。」
という衝動であったことは間違いなかった。 今回は、AIBOに感謝を込めて、その功罪を考えてみよう。

AIBOの「功」その1〜非製造業向けロボット市場の開拓

AIBOの登場が家庭用ロボットという新たな市場を切り開いた意義は大きい。 それまで製造業向けに限定され、
約6000億円で頭打ちになっていたロボット市場に 新たな可能性を実証してみせた。

AIBOを真似てさまざまなペットロボットが発売され、一時は大ブームにまでなった。 現在ペットロボット市場は一旦縮小しているが、
この1年で二足歩行型ロボット玩具や、警備・防犯向けロボットが次々登場し発売された。
AIBOが家庭用ロボット市場を小さいながらも維持し続けてくれたからこそ、 10万円〜100万円もするこれらのロボットが、
日本市場に登場できたと考えられる。 欧米市場ではとてもこの価格帯では発売できなかったはずである。

AIBOの「功」その2〜若者にロボット開発の夢を身近なものにした

AIBOのもう一つの功績は、ロボットが極めて身近な存在となり、 ロボット技術者を目指す若者が増えたことである。
研究レベルでは優れたロボットが数多く開発され、デモを見る機会も増えている。 それはそれで子供達に大きな夢を与えているだろう。
しかし、デパートで売られ、毎日手で触れられるというのは、 ロボットへの親近感という意味で大きな違いがある。

近年、小中学生向けロボット教室や、高校生/高専生や大学生向けのロボット コンテストはますます盛んになっている。
自作ロボットキットも、 入門教材から、 マニア向け本格的な研究用まで、様々な種類が発売されるようになった。
ロボット技術者を目指す若者を育てる環境は、世界で日本が一番であろう。

これはもちろんAIBOだけの功績ではないし、定量的な根拠もない。 AIBOは15万台も販売され、全国どこに行っても、
実際に動くロボットを見られるようになった。 このことが子ども達をロボットを惹きつけるのに一役買っていると考えたい。

AIBOの「罪」〜エンターテイメントを過剰に重視させた

AIBOの功績に文句をつける訳では無いが、 もしかすると日本のロボット事情に、少しだけ悪影響を及ぼしたかもしれない。
それは、ロボットに「エンターテイメント」を過剰に求める風潮を生んだ、ということである。

AIBOによってパーソナルロボットの楽しさというものが、大きくクローズアップされた。
そしてロボットは魅せるものだ、という風潮が世間に広まってきた。その筆頭がAIBOである。
このため実用ロボットの開発でも、デモでいかに魅せるかが大きなポイントとなっている。
このロボットにエンターテイメントを求めすぎる傾向は「愛・地球博」で頂点に達した感がある。

魅せるロボット自体は悪くはないし筆者も好きだが、 もっとシンプルに単機能で役立つロボット開発に重点を置くべきと考える。
そうすればロボット市場は早期に立ち上がるはずである。 なぜ、こんなことを言い出すかというと、
米国で現れた日本と異なる2つの技術開発がとても気になったからである。

一つは、自走式掃除ロボット「Roomba」である。 約3万円という低価格で累計150万台も販売された。
床にモノが多い日本の住宅では、同様の掃除ロボットはあまり機能しないので、
売れないのは当然としても、家事を補助する単機能ロボットの技術開発をもっと重視すべきであった。

もう一つは、国防総省がスポンサーとなったロボット自動車による砂漠横断レース 「DARPAグランド・チャレンジ」である。
ロボット技術の中でも最重要課題の一つが自律走行であり、まだまだ課題が多い。
その中で過酷な屋外環境で200kmを完走した車が5台もあったというのは驚きであった。

日本にも、家事支援ロボット技術や、 高度な自律移動技術はあるが、 より早期の実用性を重視した技術開発を目指して欲しい。
そうしないと、今アドバンテージのある日本のロボット技術を 市場で活かしきれない可能性があるからである。

ペットロボットはまた復活する

ソニーはAIBOだけでなく、二足歩行ロボットQRIOの開発も止めるようである。
日本のロボット開発を牽引したソニーが、自ら幕を引いてしまうのは、本当に残念である。
しかし、結果論から見ればエンターテイメントロボットに賭けたのは失敗であり、
ゲーム機のような1000億円市場には当分なり得ないのは確かだ。

業務用では警備・防犯や施設内物品搬送、家庭用では掃除・洗濯等の家事支援が、 早期実用化の可能性があるロボットだろう。
これらの市場が立ち上がるまで、まだ5年程度は要するだろうが、 家庭用の実用ロボットが普及してくれば、
実用性以上の付加価値としてペットロボット機能もまた復活するに違いない。

さようならAIBO。きっと、また会える。