ペットロボット−愛敬の仕掛け−

「本当は猫を飼いたいんだ。でも、うちはマンションだから、熱帯魚を飼っているよ。 といっても、アクアゾーンなんだけどね。」

たまごっちは大ヒットして、いつの間にか消えてしまった。けれど、 生き物系育成シミュレーションゲーム、いわゆる「育てゲー」は相変わらずの人気だ。 アメリカでもをパソコンで飼うのが流行っている。 しかし、ペットは抱いて、触って、話かけられなきゃ楽しくない。

そんなみんなが待ちこがれているのがペットロボット。 もうその存在はずいぶん有名になった。 ソニーは昨年プロトタイプを発表したし、今年はペットロボットの共通規格OPEN-Rを提案した。 シルバーメタリックなフォルムは小犬版ロボコップそのものだ。 まるでブレードランナーにでも出てきそう。 ところが、これがひとたび動き出すと実に愛敬がある。 ちょっと頭をかしげたり、ヨタヨタ歩く姿に、思わず魅せられてしまう。 それにしても、このかわいさは一体どこから来るのだろうか?

かわいさの基本形はピカチュウ

21世紀にはさまざまな形でロボットが家庭に入り込んでくると予想されている。 しかし、人々がロボットとの共生に馴染むには、 ロボットに親しみを感じさせる技術が欠かせない。 究極の姿はアトムや ホンダのP3のような人間型ロボットであるが、 人間型は実現が難しく、最初はもう少しシンプルな形のロボットから入ってくるはずだ。 それに、あまりに人間に似すぎていると、拒否反応を示す人がいることも忘れてはならない。 人間的ではあるが、明らかに人間ではない形が受け入れやすいのだ。

日本で求められるものは、まず「かわいさ」である。 見た目のかわいさ、動きやしぐさのかわいさなどいろいろある。 アトムやドラエモンはとても賢いが、どこか愛敬があり、 友だち感覚でつきあいたいロボットである。 ピカチュウのように、人間のお供をする小動物という形もよい。 言葉はしゃべれないけれど、 いつも側にいて、しぐさのかわいさで人間の気持ちを和ませる形だ。 ペットロボットの原形が見える。

ソニーがあのようなメタリックな外観をしたのは、 しぐさのかわいさ(=技術力の高さ)をアピールするために、 あえて見た目のかわいさを拒否したのだ。 これに対し、オムロンの猫型ペットロボットは逆に見た目のかわいさを強調して、マーケットに近いところを示した。 東大佐藤研究室の ペットロボットは入院患者のストレスを和らげる目的だが、 かわいさはピカチュウ的だろう。 アプローチは違うがいずれも日本的かわいさを追求しているように見える。

アメリカ人はR2D2とギズモ

一方、アメリカではホームロボットは「召使い」であることが大切らしい。 ロボットと感情的には距離をおき、 言うことをきちんと聞いてくれることが求められる。 形はR2D2に基本形を見ることができる。 私にはかなり違和感があるが、 2,500ドルで発売されたホームロボットケアボット(Carebot)は自走式ドラム缶というR2D2の基本をおさえている。 RWI社の示した未来型の性格を持つロボット達もやはり円筒形だ。 アメリカ人はあの円筒形に特別の親しみを感じているとしか思えない。

アメリカにもペットロボットに近いおしゃべりぬいぐるみファービーがいる。 でも、かわいさがアメリカ的だ。ほとんど映画グレムリンのギズモ。 ロボット研究で有名なマサチューセッツ工科大学でも、 対話ロボットkismetを開発中だが、これも明らかにギズモだ。 日本人にとってのロボット原体験がアトムやピカチュウとするならば、 アメリカ人にとってのロボット原体験はR2D2とギズモなのかもしれない。