インターネット広告市場は成長がつづき、 ついに昨年度はラジオ広告を抜いた。 2007年には雑誌広告をも抜く勢いである。 広告は「潜在顧客に広告を見せ、商品・サービスの購入につなげること」 を目的とし、広告会社にはそれを効率よく行うことが求められる。 インターネット広告は次々と新しい広告手法を考案し、 広告効率の向上を図っている。 今回は最近増加している新しいインターネット広告を見てみよう。
パーソナライズド広告の発展 〜 行動ターゲティング
広告を見てもらうためには、各人の趣味・嗜好にあわせた広告を見せることが重要である。 その手法として、約1年半前の本コラムでパーソナライズド広告を紹介した。 たとえば、Amazonの書籍購入履歴に基づく広告やGoogleの検索語に関連した広告である。
最近は、パーソナライズを一歩推し進め、 ユーザが閲覧したページの順番・時間等と興味を持つ広告の関連を分析し、 適切な広告を表示する「行動ターゲティング」という手法が注目されている。 たとえば、自動車のページから保険のページに移動したら(生命保険ではなく) 自動車保険の広告を表示する。 高級自動車のページを長く見ていた閲覧者には 資産運用の広告の方がいいかもしれない。 だが、もしかすると全然関係のなさそうな靴の広告の方がクリック率が高いかもしれない。 保険のページではなく、全く別のページに移動したときに広告を出した方がいいかもしれない。
このように、行動ターゲティングはユーザの行動の分析基準(閲覧時間や頻度)、 興味の発見方法(保険・資産運用・靴のどれをより好むのか)、 広告を出すタイミング等が難しい。
※ このような人間の直観的な分類、分析が難しい分野こそ学習理論が役立つ可能性がある。 一番の問題は、「これとこれを見たユーザにはこのページで広告を表示します」 ということを広告主に示しにくいことだろう。 学習理論では「とにかくベストと思われるページで広告を表示します」 としか言えないことが多い。しかし、これでは広告主はなかなか納得してくれまい。
究極(?)の広告
さて、ある自動車会社が若い女性をターゲットにした自動車を開発し、 自動車に興味を持っていなかった女性にも売り込もうと考えたとしよう。 若い女性が訪問しそうなサイト(化粧品や衣料品などだろうか) に広告を出しても、もともと自動車に興味がない女性が クリックする確率はあまり高くない。 また、パーソナライズド広告を使っても、「自動車に興味のない若い女性」という 曖昧なターゲットではうまく機能しない。
そこで注目されるのが、ブログやSNS (※)を使った広告(ここではブログ広告と呼ぶ)である。 ブログやSNSにバナー広告を出すのではない。 コンテンツを広告にしてしまうのだ。 執筆者はバナー広告等のアフィリエイトと同様、クリック数等に応じた報酬を受け取る仕組みである。 たとえば、定期的に見ているブログに、
今日は○○自動車のショールームに行ってきたよ☆ わたしはついて行っただけなんだけど、△△っていうクルマ、 かわいくてオシャレでちょっといいかも♪
などと書いてあったら、△△という自動車に興味を持ってくれるかもしれない。 ブログの定期的な読者は執筆者と興味が似ていることが多く、 ブログ広告はこの関係を利用している。 また、読者が自分のブログで△△という自動車に触れ、 ねずみ算的に広告効果が広まることも期待できる(しかも無料で)。
※ SNSとは”Social Networking Service”の略称である。 メンバ制のコミュニティサイトであり、友人や友人の友人でコミュニティを形成する。 総務省や地方自治体も住民参画にSNSを活用しようと模索している。
しかし、この広告の最も優れた点は、とにかく広告に目を通してもらえることである。 普通の広告をじっくり見ることは少ないが、 ブログ広告はほとんどすべての人に読んでもらえる。 なぜなら、読者はブログを読むためにそのサイトに訪れているからである。 コンテンツ自体に広告を含めてしまうという試みは、 一部のゲームやドラマ等でも行われているが、 ブログ広告はこの点で一線を画している。
ブログ広告を利用しよう
さて、ここまで広告主、あるいは広告会社側の立場で考えてきた。 逆に私たち消費者側から見るとこれらの広告はどうだろうか。 自分が興味を持っている、あるいは興味を持つ可能性がある広告が表示されるということは悪いことではない。 まったく興味がないのに派手で目障りな広告よりはずっと好感が持てる。 しかし、昨年のコラムでも触れたため詳しくは述べないが、 パーソナライズド広告には監視されている印象を受けるという問題点がある。 しかも行動まで監視されるとなると、現実世界であればストーカーであろう。
一方ブログ広告は、多少の問題はあるものの利点は大きい。 ブログ広告は執筆者の主観が入っているという点で従来の広告とは大きく異なり、 私たちの商品選択に役立つ可能性は高い。 ある程度商品が美化されてしまうのは広告である以上やむを得ないが、 広告主の主張に流されなくするためのセカンドオピニオンとしては十分利用できるだろう。 広告主は希望のターゲットに宣伝でき、ブログ執筆者は小遣い稼ぎができる。 さらに消費者もセカンドオピニオンを得られる。 3者とも利益を享受できるブログ広告は優れた広告手法であるといえよう。
ブログ広告の問題点は、ブログが広告だらけになってしまうおそれがあるという点である。 しかし、そうなれば読者も気づいて訪問者が減少し、 広告主のイメージダウンの可能性もある。 広告会社もブログ執筆者も広告の割合を一定以下に抑えるように工夫するはずだ。 ブログ広告は一時的には問題も起こすかも知れないが、 インターネット広告の中で一定のシェアを占めることになるだろう。
本文中のリンク・関連リンク:
- 電通のプレスリリース〜インターネット広告費がラジオ広告費を抜く
- インターネット広告費予測調査(電通総研)
- パーソナライズド広告は究極のおせっかいか (Take IT Easy 2004年5月11日号)
- ブログ広告の例〜広告活動の一環であることを明示し、 本文中のような問題を避ける工夫をしている。