パーソナライズド広告が大流行である。 パーソナライズド広告はターゲティング広告とも呼ばれ、 ユーザの年齢・性別・嗜好・行動等に合わせてターゲットを絞り、 ユーザ毎に異なる内容を送信する広告である。 インターネットでは既に常識化しているこの手法が、 ユビキタス社会の到来と共に街中にも進出しつつある。
ネットでは常識となりつつあるパーソナライズド広告
最もわかりやすいパーソナライズド広告は、 筆者もよく利用するオンライン書店の Amazon.co.jpであろう。 ログインした状態でトップページにアクセスすると、 下の方に「おすすめ商品」というコーナーがある。 ここに表示されている本は、自分が過去に購入したりチェックした商品から 自動的に選ばれているのである。 したがって、ユーザは知らずにそれぞれ異なるトップページを見ていることになる。 おせっかいではあるが、本を探しているときには便利なものではある。
最近、Googleもパーソナライズド広告を始めた。 ユーザが検索したキーワードに関連する広告を表示する Google アドワーズ広告である。 現在は単純にキーワードに1対1で対応した広告が表示されるだけであるが、 将来、検索の履歴も考慮されるようになれば、 ユーザの嗜好を推論して広告を表示することも可能になるだろう。 そうなればこれは完全にパーソナライズ広告となる。
このようにインターネットではパーソナライズド広告は既に常識化しつつある。 ネットショッピングや検索エンジンでは、広告は気にしなければほとんど問題はないし、 ユーザにとっても便利さが勝っている。 しかし、これがネット以外に広がり始めると、必ずしも便利なだけとは言っていられない。
ユビキタス社会はパーソナライズド広告社会
少し前になるが六本木ヒルズでは、 RFIDを利用した個人別の情報提供システムの実験が行われた。 ここでは来場者にRFIDタグにボタンをつけた「タウンクリック」が配られる。 六本木ヒルズ内を散策している途中で、気になる広告を見つけたら、 ユーザは広告の近くでタウンクリックのボタンを押す。 そうすると携帯電話にその詳細な情報が送られてくる仕組みだ。 他にも、あらかじめ登録した趣味や年齢に応じて、 近くのショップの割引情報が送られてくるというサービスもある。
当然、いずれ携帯電話と一体化して、 自動的にパーソナライズド広告を配信することが目標であろう。 メールで自動配信すればSPAMだが、 その瞬間に画面に表示されるだけなら、 受け入れられる可能性はある。 料金の割引と引き換えに、 携帯電話の画面の片隅には常に広告が表示される時代が来るかもしれない。
大日本印刷は、 スーパーやショッピングセンターなどで利用するショッピングカートにICタグとパソコンを搭載した 「ナビゲーションカート」を開発した。 来店客の位置情報をもとに店内各所に配置した無線LANのアクセスポイントから、 売場情報や商品情報をカートの液晶ディスプレイに配信するというものである。 これはこれで便利なのであるが、本当の狙いは個々の商品にICタグがついた時にある。 つまり、何をカートに入れたに応じて、お薦め商品を表示するのである。
やっていることはアマゾンと同じなのだが、 「特売498円ワインを買った人は、この商品も買いました。 チーズセット358円、粗びきソーセージ125円、、、。」 と表示されると、少々恥ずかしいのはなぜだろうか。
プライバシーと利便性のバランスはどこに
ネット広告とリアルな広告は同じではない。 それは生活が見透かされているという感覚がたまらないのである。 携帯電話にしてもショッピングカートにしても、 他人から見られてしまう可能性がある。 基本的に室内で一人で見るネット広告とは違う。
プライバシーと利便性のバランスをどこに置くかということは社会問題になりつつある。 登録したユーザだけを対象にするという、 いわゆるオプトイン方式で解決できると考えるむきもあるが、実際には不十分であろう。 大きな問題点は2つ。オプトインしないと充分なサービスが受けられなくなり、 ほとんどのユーザが結局登録してしまうこと。 登録先が膨大な数になり、一旦登録すると解除はとても面倒であることである。
ユーザが時間や場所、状況に応じて、 広告全体の受信レベルを変えられる仕組みが必要であろう。 オン/オフではなく、個別の広告毎でもない。 あらゆる広告の総受信量を同時に下げたり上げたりすることが望まれる。 このような総量コントロールが今後の電子広告のトレンドではないだろうか。
本文中のリンク・関連リンク:
- オンライン書店 Amazon.co.jp
- Google アドワーズ広告
- 店舗内情報配信システム 「ナビゲーションカート (大日本印刷)
- 六本木ヒルズITショーケース「タウンカード&クリック」 (ITmediaの記事 – 2003.3.6)