P2Pソフトは悪者か

今年も4月1日にエープリルフールRFCが発行された。タイトルは「RFC3751 全知プロトコルの要件」である。今回はこの RFC の紹介とともに、P2Pソフトの是非について考えてみよう。

全知プロトコルの要件

「RFC3751 全知プロトコルの要件(Omniscience Protocol Requirements)」では、昨今のP2Pソフトを使った著作権のある音楽などの違法コピー問題を取り上げ、それを解決するための「全知プロトコル」の導入を提案している。全知プロトコルはサーバ/クライアントモデルで構成され、パソコンを含めた世界中のあらゆるデバイスにクライアントソフトを導入することを法的に義務づけ、それらがサーバと交信することによって違法コピーのみならず、ユーザの違法な行為すべてを取り締まろうというアイディアである。

クライアントソフトウェアによってユーザの違法な行為を判定するという仕組みも実際にやるとなるととても「野心的」な取り組みとなるが、それよりもクライアントの数が増加することによって破綻することが容易に想像できる従来型の「サーバ/クライアントモデル」を使って問題を解決しようとしているところなども、ユーモラスでほほえましい。

P2Pソフトはあくまで手段

違法コピー行為の温床のように言われてしまっているP2Pソフトだが、違法行為を行っているのはあくまでユーザ本人の意志である。これは上で説明した「全知プロトコル」でも詳しく分析されているが、全知プロトコルで監視するのはP2Pソフトの挙動ではなく、あくまでユーザの意志である。1台のパソコン内で行われる著作権付きファイルのコピーにしても、善意のユーザが実施すれば単なるバックアップ行為にしかならないのに対して、悪意のあるユーザがやればそれは違法コピーとなるわけである。

ソフトの挙動ではなくユーザの意志を計るのは、現在のコンピュータサイエンスの力ではまだ難しいだろう。それ故にエープリルフールRFCとして「全知」という言葉で逃げているわけだが、コンピュータなどの人間をサポートするマシンに求められているものは、究極的にはユーザの意志の認知なのかもしれない。ユーザの意志によって振る舞いを変えるパソコンができると、気の利いた人間のアシスタントを超えた働きも期待できる。

善なる意志に向かせるために

P2Pソフトはサーバ/クライアントモデルの一極集中を解消する優れたモデルであるため、今後も多くのアプリケーションで採用されていくだろう。その際に誰もが心配していることは、そこでやりとりされる情報(コンテンツ)のコントロールである。現在のところそのコントロールが技術的に難しいことから、CCCD(コピーコントロールCD)のようにコンテンツ元で複写を厳しくしたり、米Apple社のiTunes Music Store のように1曲99セントと安価に提供することにより「P2Pソフトで違法コピーするより手軽」という戦略を取ったりしている。

このような水際作戦もある程度有効ではあるが、私はユーザが自発的に善なる意志に向かわせる仕組みが必要だろうと考える。全知プロトコルは極端な例になるが、多くのユーザは衆人環視の元ではそうそう悪いことはしないものだ。ブラウザのヒストリ機能もそうだが、パソコンに行動履歴が記録されて容易に消せないような仕組みが入っているだけでも、違法行為の大きな抑止力になることは間違いない。