オープンソース開発者の人物像

三菱総研では、LinuxやApacheに代表されるオープンソース/フリーソフトウェアの開発者約500名に対し、 オンラインアンケート調査(FLOSS-JP)を実施した。 詳しい集計結果と分析は別途ご覧頂くとして、 これまで実態がほとんど明らかにされていなかった、 オープンソース開発者の現状の一端を紹介しよう。

若手開発者の割合が少ない

まずは、オープンソース開発者のプロフィールを見てみよう。 予想通りと言ってはなんだが男性が98%を占めた。 平均年齢は31.2才、開発に参加したのは平均26.6才の時である。 約半数はソフトウェア開発者であり、学生は14%である。

これは欧米調査に比べて3〜4才高く、学生の割合が少ない。 大学や専門学校においてオープンソースに触れる機会の少なさが原因と考えられる。 Windows環境で開発している人が3割 (欧米は数%) というのもこれを示している。 また、欧米では学生の3/4が情報系学科なのに対し、日本では半数以下であることは、 日本の情報系大学教育の課題を示している。

北海道大学では、オープンシステム工学講座が開設され、 オープンソース(だけではないが)の開発手法や開発ツールを実践的に教えている。 このような試みはもっと他大学も積極的に取り入れて欲しいものだ。

趣味が大半だが、職業開発者も増え始めた

オープンソースは趣味の世界からビジネスの世界に移りつつあると言われている。 しかし、オープンソース開発で収入を得ているのは約1/4であり、 開発時間は週平均5時間以下が60%を占める。 まだまだ多くの開発者は趣味として開発しているようだ。 一方で週20時間以上が7%、40時間以上が5%おり、 ほぼフルタイムで開発している人も一定数いることが分かった。

オープンソース開発参加の動機を見てみると、 「スキルを学ぶ」「知識・スキルを共有」が圧倒的に強い。 ところが、オープンソース開発で120万円以上の収入を得ている開発者に限ってみると、 スキル・知識関係も強いが、 「仕事の機会を拡げるため」 「収入を得るため」 というキャリア形成に関する回答が増える。 また、 「プロプラエタリソフトで解決できない問題を解決するため」 「プロプラエタリソフトはよくないと考えるから」 とオープンソースやフリーソフトウェアに共感する理由も増える。

オープンソース関連収入のある開発者は、コミュニティ参加も積極的である。 定期的に6名以上のコミュニティメンバとコンタクトのある開発者は、 無収入層が26%に対し、120万円以上の層が64%である。 また、グローバルコミュニティへの参加率も無収入層が約30%に対し、 120万円以上の層は約60%である。

つまり、アクティブな開発者はオープンソースに対する意識が高く、 収入も得られようになってきたと言える。 欧米の調査では既に約40〜50%が収入を得ており、 日本でも徐々に状況が変りつつあるというところだろう。

日本のオープンソース開発を盛んにするには

この調査はどうしたら日本でオープンソース開発がもっと盛んになるかという目的で実施された。 その背景には、日本市場が海外製パッケージソフトウェアに席巻され、 日本のソフトウェア研究開発の技術水準が維持できなくなりつつあるという現状がある。 これに対しオープンソースの世界では、 スクリプト言語RubyやメーラSylpheed、ブートローダGRUB等、 日本人が開発し世界中で使われているソフトウェアがいくつかある。 オープンソースは日本のソフトウェア技術開発における希望の一つであるのだ。

もちろん世界の主要なオープンソースプロジェクトにおける日本人参加率はまだ低い。 およそ1〜3%である。 例えば、Linuxカーネルのソースコード中に記載されている開発者名は約3千人いるが、 そのうち日本人と思われるのは65名であった。 先進国の人口比を考えると10%程度まで増えてもおかしくない。 一つには英語の壁があるが、オープンソース開発に対する社会的認知の低さも影響しているように思う。

オープンソース開発者にどうしたら増えるだろうかとインタビューしてみると、 皆一様に「それが仕事になればすべて解決さ」という。 「ストールマンやペレンスのような伝道師、目標となるリーナスのような著名開発者がいれば違う」 という答えも多かった。

日本でも大手ITベンダがLinuxに本腰を入れてきたし、 オープンソース企業と呼ばれる企業も少しずつ登場している。 オープンソース開発者の就職のチャンスは確実に広がっている。 だが、オープンソース開発がビジネスとして成功するには、 強力な自前のオープンソースソフトウェアが無いと厳しい。 残念ながら日本発の著名なソフトは少ないので、 開発者を増やさなければならず、結局卵と鶏の関係に陥ってしまう。

結局、地道にオープンソースへの理解と認知を広める努力を続けるしかないのだろうか。 特に学生や中高生に対する導入教育や、 オープンソース開発に興味ある人に対する教育カリキュラムの策定が重要だろう。 日本のオープンソース開発はまだこれからである。


[補足]以前、Linuxデスクトップが普及すると述べたが、 本調査では46%のオープンソース開発者が日常的にLinuxやFreeBSD等をデスクトップ環境として使っていると答えた。 少なくとも彼らの間では実用的レベルにあると言える。 実際、筆者もこの数年Linuxデスクトップ愛用者である。今年はブレイクの年になりそうだ。