カメラ時代は来るか

本コラムでこれまで触れてきたように(1)(2)(3)、 コンピュータのユーザインタフェースはいまなお盛んに研究が続けられている。 9月に開催されたINTERACT2003 でも様々なアイデアが議論されていたし、 10月のキーボード&入力インタフェース研究会でもユニークな入力機器が注目を集めていた。 さらに注目すべき話題のネタは、PlayStation2用の新しいデバイス、 EyeToyである。 カメラを使ったインタフェースが、いよいよ身近なものになるのだろうか?

苦戦してきたカメラアプリ

いまや携帯電話にカメラが付いていることが当たり前のようになっていて、 デジタルカメラはごく身近な電子機器のひとつだ。 ただし、今までのところ、カメラは写真を取るための道具以上に進化を見せていない。

数年前、小型カメラを内蔵したノート型PCが流行した。 ブーム末期には、カメラにコンピュータが付いているのではないかと見間違うほどの、 物々しいレンズが備えられていたものもあった。 それらのPCには、 お遊びのソフトから顔認証でPCのスクリーンセーバを解除するなどの多少は実用的なものまで、 カメラを使用したアプリケーションがいくつか添付されていた。 しかし、これらのソフトウェアを活用していたユーザは、 はたしてどれ程いただろうか?

NetMeetingなどPCを使ったTV電話は、 ネットワークのプロバイダや通信業者が喧伝するほど普及していない。 携帯電話キャリアはTV電話の楽しさをこれでもかと宣伝して普及に努めているが、 TV電話のブレイクにはまだ時間がかかるだろうということは想像に難くない (手持ちの携帯電話を使ったTV電話は、カメラが下にあるので不細工に映るという大問題があるのだ)。

画像入力インタフェースの落し穴

今ではCPUの処理能力は十分に高くなり、 また通信環境も飛躍的によくなっている。 カメラデバイスは安く簡単に手に入るようになった。 画像関連ソフトウェアもいくつも販売されている。 それなのに、どうして画像入力インタフェースは一般的にならないのだろう?

大きな理由は、簡単に利用できるキラーアプリケーションが無いことだろう。 TV電話はキラーアプリの候補のひとつとなり得る可能性を持つが、 いまのところユーザビリティの悪さで損をしているようだ。 またユーザにも文化的な意識変化を迫る道具ということもあり、きっかけを待つ状態が続いている。

ユーザビリティの問題

画像認識を利用したユーザインタフェース研究も多いが、 ユーザビリティの観点まで言及している事例は少ない。 ユーザインタフェースとして実用化するには、 ユーザがとくに意識することなく、どんな環境においても、 どのような使いかたをしてもそこそこ動作する必要がある。 私たちも画像認識を利用したユーザインタフェース研究を続けており、 日々、気を付けている問題のひとつである。

さらに、入力のモードの問題が残っている。 入力デバイスには入力状態と待機状態がないと使いにくい。 マウスはそのモードの切替を自然に行なっており、 明示的に転がさないと入力状態にならない点が優れている。 ところがカメラをリアルタイムの入力機器として用いたとき、 カメラは常に画像情報を取得している状態だ。 このモードの切り替えをどのように実現するかの問いには、まだこれといった解が無い。

顔画像をリアルタイムで計測し、ユーザインタフェースに利用する発想はごく自然なアイデアだ。 あとはユーザビリティを向上させ、 日常的なインタフェースとして使うための敷居を低くすることが重要なポイントだ。 ただし、もちろんキラーアプリがその敷居を払拭する可能性も無きにしもあらず。 EyeToyのような消費者向けデバイスの動向にはしばらく目が離せないところである。

結局カメラ時代は来るのか

まだまだ解決しなければならない問題も多い画像入力インタフェースだが、 はたしてカメラがキーボード・マウスに並ぶ入力デバイスとして標準的なものとなる日は来るのだろうか?

ここではあえて「来る」と断言してしまおう。 お膳立ては揃いつつある。あとは、もうひと押しの何かキッカケがほしいところだ。 その何かを探して、日々研究する研究者・開発者は努力しているのである。


ところで手前ミソで恐縮ですが、今週、10/30〜11/1に大阪で開催される Linux Conference 2003では、 私たちが開発しているFacePointユーザインタフェースを紹介する予定となっています。 FacePoint は3次元モデルの操作を見たままに扱おうというシステムで、 3次元CADや3次元モデリングソフトウェアなどでそのモデルデータの取扱いについて、 直観的な易しい操作方法を提供しようという試みです。

今年はLinux Conferenceも無料で参加できるとのことなので、 お近くにお住いで、 ご興味のある方はぜひ会場に足を運んでみてはいかがでしょう? (FacePointの発表は、初日の13:10〜です)。