IP電話で110番

IP電話が大人気だ。 ADSL最大手のYahoo!BBのBBフォンは既に200万回線を突破した。 IP電話 (end to endのIP電話ではないが) の老舗、フュージョン・コミュニケーションズでも200万回線を既に突破している。 その他の大手ISPもIP電話の普及を進めるために、IP電話普及ISP連絡会を連携して立ち上げている。

IP電話とは

IP電話とは簡単に言えば、音声通話をインターネット上で行う技術(VoIP: Voice over IP)で、これまでの回線交換式の電話(固定電話)よりも安価に電話がかけられるものである。 一時は通話品質などに不安があるとされていたが、現在は問題ないようだ。 IP電話やVoIP技術については、TakeITeasy記事JPNICの解説を参照されたい。

では、従来の固定電話はどうなってしまうのだろうか。 NTTはその3ヵ年経営計画の中で、固定電話網と固定電話系オペレーションシステムへの投資を原則停止し、VoIP技術による電話サービスに移行していくことを発表している。 もちろん今の電話機が使えなくなるということはなく、近い将来、殆どの人は気がつかないうちに、技術的にはIP電話を使っているということになるだろう。

IP電話の課題とは

価格も安いし、品質もそこそこであれば、IP電話万歳ということになるのだが、問題点がないわけでもない。 例えば、総務省が公表している「IPネットワーク技術に関する研究会」報告書では、次のような課題が指摘されている。

  • IPネットワーク技術に関する標準化の推進
  • 相互接続の推進
  • セキュリティ対策等
  • 緊急通話・重要通信確保
  • IPv6の導入に向けた対応

これらの内、いくつかは解決に向けて進展が見られるものもあるが、意外に厄介なのが「緊急通話・重要通信確保」だ。

例えば、IP電話で110番にかけるとどうなるのかを考えて見よう。 いまのIP電話サービスでは、相手が固定電話(110番)だと回線交換方式に自動的に切り替わる。 しかし、将来全ての電話(110番を含む)がIP電話になると、110番通報の音声パケットもインターネットを経由して警察に届くことになる。

IP電話で110番

ご存知の通り、インターネットプロトコルでは、あるパケットがどのような経路を辿って相手まで到達するかを厳密に制御することはできない。 だから、110番はもちろん、災害用伝言ダイヤル(171番)、災害対策機関の災害時優先電話などの緊急通話・重要通信を確保しようとすると、経路上のルータ全てで「重要なパケット」を優先的に通す仕組みが必要になってしまうが、今のインターネット技術や構成では難しいのだ。

実は、筆者は国際標準化団体のITUで、IPネットワーク上などで重要通信を行う場合を想定した標準化の部会に顔を出しているのだが、技術的な問題以外にも困難は山積している。

例えば、このような枠組みを実装するコストはだれが負担するのか、インターネット技術に対する国の規制はどうあるべきか、などが代表的な論点であるが、誰もが納得する答えはない。 個人的な予想としては、一般的・汎用的な緊急通話・重要通信の枠組みを、ここ2〜3年でインターネット上に実現することは難しいと考えている。 しかし、目前まで迫っているIP電話時代の緊急通話・重要通信を、どこまで、そして、どのように実現するかについて、真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。