地方自治体のあいだで、自治体向けシステム開発を地元の中小ITベンダに発注する動きが広がっている。 中央省庁におけるシステム調達の問題は、 本コラムでも取り上げたことがある。 ここでも中小ITベンダにもっと発注の機会を増やせないか、といった問題指摘をしていたが、 この動きが地方から一足早く始まったことになる。
硬直化したコスト構造を見直す
自治体のシステム開発の調達先も、中央省庁と同様に一部の大手ITベンダに集中している。 こうしたシステム開発では、開発から運用まで大手ベンダに頼りきりになり、 気がついてみると全体ではかなり割高で、しかもシステムの中身が分からないため、 新たな改修が発生すると再びそのベンダに委託しなければならないケースが多い。 問題の構図は中央省庁の場合とほぼ同様である。
試行錯誤する自治体
この状況を打開するために、長崎県、 岐阜県、 宮城県などでは、 地元ITベンダの受注機会を増やす具体的な取組みを始めている。例えば、地元ITベンダも加わったジョイント・ベンチャー を推奨する方式や地元ITベンダを優遇する評価項目を加えた総合評価競争入札等の導入である。
こうした取組みでは発注側の負担はどうしても大きくなる。中小ITベンダが受託しやすくなるよう、 仕様を明確化し、開発規模も小口化しなければならない。開発の中身を把握していないと難しい作業である。 しかし、先行する自治体はコンサルタント会社、大学、NPO等の支援を得たり、ITコーディネータの人材育成を独自に進めることで、 問題をひとつひとつ解決しているようだ。
目指すのは地元IT産業の活性化
ところで、地元ITベンダへの発注には、地元経済を活性化させ、 さらには地場IT産業を開拓したいという自治体の本当の狙いがある。 付加価値が高い産業の集積を進めたい自治体にとっては当然のことであろう。
しかし、この目標は単純に地元ITベンダへの発注を続けるだけでは達成が難しいことも理解しておく必要がある。 大規模なシステム開発では、実績があり、 成熟した開発プロセスとプロジェクト管理能力を持っている大手ベンダを委託先とする方が合理的である。 そうしたプロジェクトに地元ITベンダを巻き込んでも、従来の下請的な構造は大きく変わるとは思えない。 すると、公共工事の場合と同様の問題に突き当たる。 いずれ自治体のIT投資が一巡すると、地元ITベンダが一挙に苦境に立たされる可能性が高い。
ITの地場産業化
ここで考えておくべきことは幾つかあるだろう。
第一は、地元IT企業群に独自の技術やノウハウが蓄積されるような工夫をすることである。 広く拡販できるような差別化されたソリューションを開発できるのが一番良い。 こうしたソリューション開発には、具体的なニーズの見極め、実証的なトライアル、多面的なアイディアや人材が必要になる。 自治体には、自らがソリューションのユーザとして共同プロジェクトに参画したり、 地域の大学や企業との連携を仲介するなどの取組みが期待される。
第二は、その地域に根ざした地場産業の付加価値を高める方向で地元ITベンダの活躍の場を作ることである。 すでに差別化された地場産業の競争力を高めるための支援ビジネスとして地元IT産業を育成するのである。 地場産業の独自ニーズに応えたソリューションをもつITベンダは、IT産業がたとえ成熟化したとしても、 持続的な競争優位性を維持することができるだろう。
このコラムを書いていて切に思うのは中央省庁の不甲斐のなさである。 改革的な取組みはむしろ地方から起るという話は良く聞くが、 中央行政による電子政府の取組みでも是非見習って欲しいと思う。