拡大するIT政府投資
中央官庁と地方自治体の情報システム関連調達を合わせると、 平成12年度は約1.8兆円に達し、 前年度比でも10%ほど拡大している。 電子政府・電子自治体の取組みを進めれば、 IT政府調達は今後とも順調に伸びていくことが予想される。 一方、 社団法人日本情報システム・ユーザー協会の調査を見ると、 民間企業も企業収益の悪化にも拘らず 情報システムに対する積極的な投資姿勢を崩していない。 こうした国内需要をてこに、IT産業、 特に情報サービス産業には、国際的にも高い競争力を身につけ、 日本経済を牽引する成長産業へと脱皮して欲しいという期待が嫌がおうにも高まる。
期待と現実のギャップ
しかし、日本の情報サービス産業の現実は、期待する姿とはほど遠い。 斬新なアイディアが競争力の源泉となる情報サービス産業では、 独自の技術力・製品をもった中小企業の成長が、 産業全体にとっても強力な成長エンジンとなる。 ところが、企業数で見れば情報サービス産業全体の95%以上を占める中小ベンダのうち、 独自の技術力・製品で独り立ちできているのはほんの一握りに過ぎない。 多くの中小ベンダは、大手ベンダの下請としてソフトウェア開発を受託しているのが実態だ。 ここ数年の国内需要の伸びは、むしろこうした中小ベンダの労働環境を厳しいものにし、 独自の技術開発や製品開発に経営資源を投入する余裕を奪っている。
厳しい財政状況のなかで何とか予算を捻出しているIT政府調達には、 こうした現実を打破する上で是非とも一役買ってもらいたい所である。 しかし、ここでも状況はむしろ逆である。 政府機関および関連機関の情報システム受注シェアを見ると、 大手ベンダ10グループのシェアは、ここ数年75〜80%に高止まりしている。 大手ベンダによる安値落札は、変わらない大手ベンダの営業姿勢もさることながら、 こうした状況を打破できないでいる調達側の問題が根深いことを物語っている。
新たな政府の動き
むろん政府の問題意識もじょじょに高まってきている。 ソフトウェア開発・調達プロセス改善協議会の中間整理(案)は、 これまでの大手ベンダ偏重を是正するために調達システムを見直す必要がある、としている。 しかし、新たな調達システムの再構築には、 同協議会が具体的に提言している「日本版CMM」策定以外にもやるべきことは多い。
調達システムの再構築に向けて
第一に、すでに 本コラム でも指摘していたことだが、 調達担当者の拡充を進めていただきたい。 調達担当者の専門スキルが不足し、情報システム構築のリスク管理を評価できないとなれば、 それを丸ごと面倒見てくれる大手ベンダに頼らざるを得ない構造が大きく変わるとは思えないからである。 調達制度だけを見直しても、実際の運用者のスキルがついていかない場合、 むしろ事態を悪くする懸念もある。中小ベンダの技術力を正当に評価できない調達担当者が、 「日本版CMM」等の指標に形だけ頼るようになれば、単純に、 ソフトウェア・プロセスを作りこむ体力がある大手ベンダを利することにもなりかねない。
第二は、政府機関の内部で着手すべきITプロジェクトを適正に意思決定し、 評価できる「ITマネジメント」の体制を整えることである。 場当たり的にプロジェクトを立ち上げるのでなく、 起案されたプロジェクトを比較して優先順位を決定する。 この優先順位の決定の際に、 全体予算の一定部分を予備調査やプロトタイプ段階のプロジェクトに割り当てるポートフォリオを作ることが重要である。 こうしたプロジェクトには積極的に中小ベンダに参画させたり、 プロジェクトのなかで中小ベンダがもっている技術の適用可能性について評価するのである。
構造改革の議論では、特殊法人を巡る話が典型的であるが、 ともすると政府部門をリストラするものばかりが目立つ。 しかし、成長分野に資源を再配分し、 その機能を強化すべき分野は当然のことながら政府部門のなかにも存在することを忘れてはならない。 IT政府調達を行う調達システムやITマネジメントがその代表である。