このコラムでもすでに触れたホットスポッ トは、最近さらに勢いを増してきている。NTTドコモまでがサービスを開始す るというニュースは記憶に新しい。家の中でも無線LANを使っているので、そ れを外出先でも使いたいと多くの人が考え始めたということだろう。今回は、 ホットスポットの一つの形態として今後の発展が期待される、電車や飛行機な どの乗り物でのホットスポットサービスについて考えてみる。
電車でホットスポット
電車でホットスポットサービスを実現するための実験は、今年に入ってか らいくつか実施されている。今年初めに実験を実施したJR東日本の「ACトレイ ン」やノキアが小田急・京浜急行で実施した「モバイルIPv6@トレイン」、ま た現在実施中の「無線LANによるインターネット接続実験@成田エクスプレス」 がその代表である。
筆者も電車でのホットスポットサービスを待望している。新幹線に乗って いる最中にパソコンを使って仕事をしたことがあるが、「メールが今すぐ見ら れたら…」とか「この情報はあのWebページに載っていたはずなのに…」と 何度も思ったものだ。実際、携帯電話の 9600bps で悪戦苦闘してなんとかメー ルを読んだこともあった。
電車でホットスポットサービスを実現する場合の技術的課題は、インター ネットとの接続をいかに安定させるかである。上記実験はどちらも、携帯電話 技術を活用して外部接続を実現していたが、その場合どうしても電波状態やト ンネルなどの遮蔽物によって、接続が不安定になったり切断されたりする。
また、特に高速走行中の電車は、リンクを確保し続けるのが難しい。移動 とともに携帯電話の基地局も切り替わってゆくわけだが、携帯電話の基地局側 で想定している移動速度を超えた場合、しょっちゅうリンクが切れることにな る。成田エクスプレスの場合、列車は約 130km/h で走行するため、リンクが 切れにくくなるための工夫が施されている。もっと高速に移動する新幹線でホッ トスポットを実現するためには、さらなる工夫が必要になることが予想される。
飛行機でホットスポット
飛行機内でのインターネットアクセスサービスも、技術的にはサービスイ ンを待つばかりという状況だ。今年の5月にはボーイング社が「コネクション・ バイ・ボーイング」(機内インターネット接続システムの名称)で米連邦航空局 の認可を受けた。さらに、最近のニュースとして三菱電機がコネクション・バ イ・ボーイングの次世代アンテナメーカとして選定された。
航空各社からのサービス提供のアナウンスは昨年から流れていたが、テロ 事件以来の航空不況の影響で、本格的なサービス提供が遅れている。ただし、 飛行機内でのホットスポットサービスへの期待は、電車へのそれよりも高いか もしれない。何しろ機内に拘束される時間が長いので、日頃インターネットに 依存している人にはその時間は何よりも苦痛になる。
ホットスポットを社会インフラとして育てる
利用者にとってはホットスポットが増えるのはありがたいことだが、事業 者サイドとしてはビジネスモデルを模索しているというのが現状だろう。有償 の顧客を確保するためにはリーズナブルな価格設定と大規模なインフラ整備が 必要になる。ここのところをうまくやらないと、第3世代携帯電話のようにユー ザニーズとマッチせず、利用者が伸び悩むということになりかねない。
ホットスポットの普及という意味では、エンドユーザには無償で提供する 方が当面はよいだろう。その場合コストは、ホットスポットを設置する飲食店 やホテル、空港などが「付加サービス」の経費として負担することになる。増 えてきたとはいえ、まだホットスポットはそれ自体に話題性もあるので、しば らくはこの「事業者側負担モデル」でいけると思う。
もっとも、誰が経費を負担するかという問題は、実は軽微な問題なのかも しれない。ADSL などの回線コストは非常に安価になっているし、IBM からは 「ホットスポットスターターキット」という商品も発売されているので、これ ならば小規模飲食店でも月額1万円程度のコストで今すぐ始められる。
ホットスポット黎明期の今、ホットスポットそのもので採算を考えている 事業者もいるかもしれない。しかし、ホットスポットを含めた「どこでもイン ターネット」が広く世の中に浸透したときに、新たに生まれてくる社会生活の 変化や、新しいサービスを含めた採算性を考える段階が、もう目の前に来てい る。