テレビゲーム並?スポーツの最新映像技術

先日閉幕したソルトレークオリンピックはやや盛り上がりに欠けたようだ。 その理由の一つとして、判定の不透明性が指摘されている。 確かに芸術点を客観的に評価するのは難しい。 しかし、ショートトラックで問題になったコース妨害の判定などには、 ビデオ映像をもっと活用すべきという意見も多い。 スポーツイベントがショービジネス化している現在、 テレビ視聴者がもっと楽しめるようにビデオ映像を活用して欲しいものだ。 今回は、スポーツ中継に使われはじめた最新映像技術を紹介しよう。

好きな視点で観戦しよう

会場で観戦する場合には席は決まっていることが多いので、 試合中ずっと同じ視点でしか見られない。 一方テレビ中継では、会場に設置された複数のカメラ映像からリアルタイムで切替え、 1チャンネル分だけ放送されている。 このため、もったいないことにほとんどの映像は使われていない。 F1などのモータースポーツの番組では、 各マシンに取り付けられたオンボードカメラの映像が放送されている。 臨場感あふれる映像なので、 お気に入りのドライバーの映像だけをずっと見たいと思ってもそうもいかない。 視聴者が好きな映像を選んで楽しみたいと思うのは当然の欲求であろう。 現状では、放送上の制約から決まった視点でしか見ることができない。

しかし、環境を限定すればすぐにでも実現する。 実際、 IPv6とマルチキャスト を使ってプロ野球を中継したり、SKY PerfecTV!ではFIFAワールドカップの試合を 4チャンネルを使って生中継するという。

複数カメラからの映像を単純に選択するだけでなく、 自由な視点からの映像をリアルタイムで生成する先進的な研究もある。 EyeVision と呼ばれるカーネギーメロン大学で開発されたシステムでは、 Super Bowlのスタジアムに30台のカメラの映像を設置し、 それぞれの映像を使ってリアルタイムに合成することで、 あたかも設置されていないカメラで撮影したような映像を作り出すことできる。 さらに室内の実験では、フィールド内の映像や選手からの視点の映像、 ボールから見た映像といった通常実現できない映像を作り出すことに成功している。 映画 Matrix の銃撃シーンでも使われていた、時間を止めて視点を移動させるという 映像効果(例: AVI形式,約2.9MB) を簡単に作り出すことができる。 さまざまな角度からの映像を見て判断すれば、 誤判定を減らすことができるのは間違いない。 さらに言えば、 リアルタイムで自由に視点を切替えられるになって欲しい、と思うのは贅沢だろうか。

テレビゲーム以上の映像

スキーやスケートのような単独で競技するスポーツの中継では、 通常区間ごとのタイム差しか分からないが、 既に撮影済みの映像とライブ映像を合成し、 同時に競技しているように見せるシステムが使われ始めている。 原理としては、 カメラを高精度に制御し同じ位置から撮影した映像から選手のみを抜き出して、 元の映像と同期させて重ね合わせている。 Dartfish社が開発した SimulCamという技術を使った Sport Vision社のものと NHK放送技術研究所で開発されたものが代表的だ。 実際にオリンピックなどの大きな大会の中継で使われているので、 見たことがある人もいるだろう。 このシステムは、トップ選手用トレーニングとしてだけではなく、 一般の人にも非常に有用である。 さらに、スポーツ分野に限らず、 さまざまな分野のシミュレーションに使われるようになるはずだ。

アメリカでは、 スポーツ中継映像にテロップ以外の画像をリアルタイムに合成することが日常的に行われている。 最も人気の高いスポーツであるNFLでは Virtual first-down lineと呼ばれる黄色の線を10ヤードの位置にリアルタイムで合成している。 NASCARやCARTなど人気のモータースポーツでは、 さまざまな映像に映る複数の車両を追従しながら、 ドライバーの名前などの情報を重ね合わせて表示している。 高速に移動するため画像処理だけでは実現は難しく、GPSを利用しているようだ。 また、中継番組中の広告も Virtual Advertising と呼ばれるシステムにより合成されている。

まるでテレビゲームのような映像が作られるようになり、 あまり知識がなくても映像そのものだけでかなり楽しめるようになりつつある。 しかし、やりすぎると現実感のないものになってしまうし、 解説者がうるさいといった今でもよく聞かれる反応と同様に、 余計な情報ばかりになってしまう可能性もある。 普及の進んでいないデジタル放送で、 データ放送やインターネットとうまく組み合わせられるようになれば、 キラーコンテンツになりうると考えている。 ソニー VAIOをはじめとするテレビ放送を見られるPCが増えており、 放送映像と合成することは技術的には難しくない。 実際、日本でも実験的に使われつつある。 ただし、これらのサービスもスポーツそのものが面白くならないと成り立たない。 まずは、FIFAワールドカップでの盛り上がりに期待したいところだ。