調達業務が抱える構造的な問題
防衛調達を巡る不祥事が続いている。こうした問題を未然に防止するために、 総務庁は「防衛庁調達業務等に関する行政監察」(平成11年3月26日)に基づく勧告を行い、 防衛庁自身も同4年2日に「調達改革の具体的措置」を公表したが、 なお談合疑惑などの報道は絶えない。 倫理的な問題は論外として、 こうした勧告や「具体的措置」を適正に実施していくことが必要だろう。 しかし、これはこれとして、なお調達業務のあり方について考えるときに根本的な問題は残る。 調達に関わる人的リソースや知的リソースの問題だ。 防衛調達で見ても、欧米と比較して調達量に対する調達職員の数が日本では圧倒的に少ない。 そうした制約のなかで、 先進的な高度技術をベースとした装備品やシステムの調達をせざるをえない、 という現状が存在している。
高度な専門性を求められる調達業務
まず、調達はかなり専門性を求められる業務であることを認識しておくべきだ。 先に問題となった不祥事も、 一つの要因には高度な専門性と技術性が要求される「原価計算業務」に関係がある。 高度な情報技術を取り込み、ソフト化が急速に進む装備品について、 適正な原価計算を行うのはた易いことではない。 無論、「過払い」は問題であるが、健全な技術革新を促すには、 不当に価格を下げるのも問題である。
調達の競争性を確保するにも、調達側の専門性は問われる。 情報技術のように、より高度な技術を含む調達ほど、 実績のある業者に発注が集中する傾向が出てくる。 実績を重視するのは調達リスクを下げる有効な戦略の一つであるが、 完全に技術知識を業者側が握っているためにそうした状況が固定化してしまうのは、 競争の問題を持ち出すまでもなく、調達の選択肢を狭める意味で問題がある。 しかし、こうしたことは大規模かつ複雑な情報システムの政府調達では、 むしろ一般化してしまっているのが実情である。 十分な情報技術の専門性をもった調達担当者を育成することは、 官民を問わず容易なことではない。
情報技術をリードしてきた国防総省のシステム調達
逆に、政府が「賢い調達」を行えば、関連分野の技術革新が進み、 供給側のポテンシャルを高める要因ともなり得る。情報技術の分野で見ると、 米国の国防総省が 「賢い調達者」として果たしてきた役割は小さくない。 国防総省は、特に大規模システムのソフトウェアを大量に取得している屈指の調達者である。 そのために、専門性を有する調達スタッフを数多く抱えているだけでなく、 そうしたソフトウェア調達スタッフのネットワークを構築して、 専門知識やノウハウの共有化やスキル向上を促している。 こうした高いスキルを有する調達スタッフは、単なる購買者に留まらず、 ソフトウェア分野の技術革新などに向けたインセンティブを与えてきた。 オブジェクト指向技術、特にソフトウェアの再利用技術等は、 ソフトウェア調達者である国防総省自身が、そうした研究開発に投資し、 具体的な調達実務に適用してきた技術の典型である。 ソフトウェア工学の分野を見回してみると、 国防総省が研究開発をサポートし、具体的実務を通じて成熟してきた技術は数知れない。
望まれる専門性を有した調達スタッフを育成
日本の場合、国防総省のような調達プロセスを作り上げるのは、かなり難しいだろう。 職員数の制約が大きい上に、知的ノウハウのストックも十分ではない。 また、調達品の内容が大きく異なるのであれば、 米国ほど強力な調達プロセスをどこまで構築すべきか、 という議論も有り得よう。 かといって、情報技術でリードをしていこうという国の調達能力が、 現状維持で良いかというと、そうも思われない。 調達職員のモラルや監視体制だけを問題とするのではなく、 高度な調達能力をサポートする人材及び知的資産を充実する「具体的措置」にも、 きちんと目を向けていくことが必要ではないか。