そういえば、ファジーなんて言葉があったよね

「ファジー」という言葉を覚えているだろうか。 ファジー洗濯機、ファジー炊飯器などのファジー家電から始まった大ブレイクは、 1990年の流行語大賞に輝いた頃が絶頂期だった。 「あいまいな」という意味のこの言葉は、イエス/ノーをはっきりしない 日本人の「まあ、適当でいいじゃん」という気持ちをうまく表していた。 最近、さっぱり聞かないけれど、どこへ行ってしまったのだろう。

ニューロ・ファジーはすたれたのか

当時、ファジーと並んで、もてはやされたのが「ニューロ」だった。 ファジーにやや遅れて、ニューロ掃除機やニューロ洗濯機などが登場し、 ついには「ニューロ・ファジー」と組み合わせたものまで発売された。 なんだか良くわからないままに、買ってしまった人も多いだろう。 もちろん少しは性能が良くなっていたのだが、 実際にはそんなに大げさに騒ぐほど画期的でもなかったようだ。 今では、松下の炊飯器乾燥機、 日立の掃除機などに、 おまけ扱いで搭載されている位で、わざわざ宣伝している企業はなくなってしまった。

それでは、ニューロやファジーがダメだったのか、というとそんなことはない。 どちらも理論的裏付けのあるしっかりした技術だ。 ただ、本来、裏方で地道に働くべき技術なのに、 実力以上に突然脚光を浴びて困ってしまった、 というのが本当のところだろう。 あまり知られていないが、ファジーやニューロは 雨水の排水や、 駐車場ビルなどの管理システムでは、 現在でも立派に活躍している。

そういえば、そんな言葉もあったかな

ブームになってしまったために、 本来の実力を発揮する前に言葉がすたれてしまった技術は他にもある。 1980年代後半にブレイクした「人工知能」や「エキスパートシステム」などはその代表だろう。 当時の人工知能技術では、できることは非常に限られていた。 みんなの期待が大きかった分、その反動で失望されてしまった感がある。

ロータスノーツに代表される 「グループウエア」も一頃よく聞いた単語だ。 最近ではグループウエアに替って、 先週紹介した「ナレッジ・マネージメント」が注目を集めている。 これは人工知能やグループウエアが名前を変えて復活したという見方もできそうだ。

訳の分からなさという意味では、「カオス」と「フラクタル」はいい勝負だ。 語感の良さも手伝って、名前だけはとても浸透しているけれど、 この二つを区別できる人がはたして何人いたか。 結局、何に使えるのかよく分からないうちに、ブームが去ってしまったようにみえる。 しかし、2〜3年前から「複雑系」という新しい衣をまとって再登場している。 相変わらず分かりにくいけれど。

すり切れてしまった言葉達

ブームになるには、魅力的なキーワードも一つの条件だ。 しかし、ファジーのようにブレイクしすぎたり、 人工知能のように名前負けしてしまったり、 あるいは、グループウエアのようにイメージが先行してしまって、 結局期待外れという印象を残してブームが過ぎ去ってしまうことが多い。 そうすると、数年後に技術が進歩して、やっと本当に役立つ技術ができても、 もうその言葉は使いにくい。 これはその言葉に昔の“色”がついてしまっていて、 言葉の持つ新しさや魅力が失われてしまうからだろう。 言葉も使われ続ける間にすり切れてしまうようだ。

一方、すり切れずに残る言葉もある。 「マルチメディア」や「インターネット」はしばらく生き残りそうだ。 残る理由をと問われると難しいけれど、いつの間にか 何か特定の技術を指す言葉ではなく普通名詞になってしまった。 それで、「○○○・マルチメディア」とか「インターネット・△△△」などの 複合語がたくさんあるのと関係がありそうだ。

最後に、もうすぐすり切れてしまいそうで心配な言葉を一つだけ挙げておこう。 それは「ウエアラブル」。 私たちが身につけるのは早くても3年後だろうけれど、 とてもそれまで言葉が持ちそうにない。