「小さな一歩」から始める個人データの企業間連携・活用

異なる企業の間でデータを共有し、事業に有効活用する、というアイディアはビッグデータが注目された頃から多くの企業が模索してきた。 一方で、データ量やセキュリティといった技術的な問題に加えて、自社の顧客・営業情報を外に出したくない、収益貢献が不透明といったビジネス面の課題もあり、思うようにデータ共有が進まない状況が続いていた。特に個人情報が関係すると、許諾取得のハードルや、匿名加工情報化の難しさ・公表義務もハードルとなり二の足を踏む状況であった。

それから数年。 自社データの分析を通じてデータサイエンスの意義・限界を把握した企業は、次のステップに進むべく、再度、企業間での個人データの連携を始めている。

王道:個別に許諾を得てデータを共有

サービスごとに個人から個人情報利用の許諾を取得し、必要な情報だけを共有するパターン。 情報銀行が代表的だが、以下のような特定の情報に特化した取り組みもある。

これらの取り組みでは、購買情報やサービス利用履歴のような詳細な行動情報を他社に提供しないことにより、各社が連携しやすく、消費者の同意も得られやすくしている。

オブラートに包む:スコアビジネス

本人確認で管理している情報は住所・氏名等のみで「どのような顧客か」がわからないため、本人確認以外の用途、たとえば営業やマーケティングでは活用しにくい。 そこで、詳細な顧客行動を「スコア」という形でオブラートに包んで提供する企業もある。 中国の芝麻信用を参考に、J.Scoreが先陣を切り、Yahoo!スコアLINEスコアが追随している。 J.Scoreはレンディング(貸金)に必要な信用情報としての用途が主であったが、YahooやLINEは顧客行動を様々な観点から指標化し、マーケティングや信頼度評価(レストランを無断キャンセルしない等)にも活用の幅を広げた。

スコア提供側には詳細な顧客行動データを開示する必要が無く、利用側はデータ分析の必要が無く、即座に指標を活用できるというメリットがある。 今後、ヤフーとLINEの合併に伴ってスコアビジネスがどう変化していくか、注目である。

許諾の範囲内で活用できる先を再確認する:グループ会社間利用、代理店契約

上記の2パターンはいずれも本人許諾が必要なため、規模の拡大が難しい点が課題だ。 許諾のインセンティブとしてクーポンやポイント等を提供することも考えられるが、ゼロから許諾を得るためコストが嵩んでしまう。 一方で、規模を拡大しないとデータが集められないため、指標も作れずサービスとしての魅力もない。

そこでデータ活用の目的に改めて立ち戻り、「本当に許諾を取る必要があるのか」と再確認することも必要だ。 グループ企業を多数持つ企業の場合、実はグループ内の他企業の情報で目的の一部を実現できることもある。 たとえばMUFGはグループ会社間での個人情報の共有を明確に示している。 これにより、グループ横断で一貫した顧客対応を実現できるようになる。 他にも、自動車業界や保険業界では、レンタル・リースや保険加入・請求といった本業を遂行するためにクレジット会社・保険会社と販売店・代理店の間で個人情報の共有の許諾を得ていることがある。 資本関係が希薄なため互いに本業以外での活用はしていなかったが、徐々に連携・活用しようという動きがみられる。

いっそのこと個人情報を共有しない

目的が補完的な知見(たとえば施策アイディアを検討する際の素材)と割り切れる場合には、個人情報を使わないというアプローチもある。 A社が注目する顧客セグメントに対し、B社は類似した顧客セグメントの顧客行動を統計化し、A社に提供する形だ。 セグメント単位の情報ではあるが、自社とは全く異なるB社のデータであるため、施策立案や商品開発等に示唆を提供してくれる。

なお、匿名加工情報での共有も技術的には可能だが、匿名化の難易度が高い、公表義務があるため競合に取り組みが知られてしまう、といった懸念から、匿名加工情報ではなく統計データとして活用することが多いようだ。

「スモールかつシンプル」が近道

これらの動きをみると、企業間データ連携を行う際には、活用目的を具体的に定めた上で取り組むことが特に重要だといえよう。 また、目的が具体的になるほどデータの連携量もデータ分析作業もシンプルにでき、時間的にも費用的にもメリットがある。 「B社と連携すると当社にないデータが補完できる」という曖昧な目的を設定すると、「あれにもこれにも使うかもしれないから可能な限り共有したい」となってしまい、頓挫してしまいがちだ。 最初から欲張らずに、ひとつひとつ連携・活用実績を積み重ねていくのが成功への近道だろう。