「リアルな場」での体験を重視したコンテンツが広がる

2019年10月の東京は、CEATEC2019や東京モーターショーなど、大型の展示会が目白押しだ。また、ラグビーワールドカップ2019日本大会をはじめ、大型のスポーツイベントも多かった。実際に会場に行かれた方もいるだろう。

大規模なイベントは、マスコミの報道や、ライブ中継や録画・ダイジェスト放送がテレビ等でされるため、現場に行かなくてもそれなりに楽しめるようになった。一方で、実際に会場に行けば、直接機器や展示を体感することができる。近年は、ライブやイベントにICTを活用することで、より楽しめるようになってきている。インターネットや放送を通じて魅力のあるコンテンツを楽しむというだけではなく、「リアルな場」でどのような体感ができるかが重要視され始めた。

展示会のデモに

ビジネス向けの展示会は、新製品の発表会という側面がある。一方最近では、まだ製品やサービスにはなっていない先端技術やコンセプト商品などのデモンストレーションの場として使われている。それを目当てに来場する人も多いだろう。マスメディアも、そのような目新しいデモを中心に報道している。実際、展示会の日程に合わせて現地に行かないと体験できないようなデモを体感しようと、多数の来場者が並んでいた。例えばCEATECでは、通信事業者が用意する5Gを使った各種デモに人気が集中していた。

お目当ての展示を効率的に見られるように、来場者に対するサービスも向上している。今年の東京モーターショーでは、公式アプリからデモ車両の試乗を予約できた。また、CEATEC2019で今年から提供が始まった公式アプリでは、会場内やセミナーの案内だけではなく、人がどこに集まっているのかわかるヒートマップ機能や、講演者の発表を同時通訳で聞ける機能、さらに音声認識技術による自動テキスト化の機能が提供されていた。ヒートマップ機能は、Pinmicro社の仕組みを公式アプリに組み込み、アプリをインストールした来場者のスマートフォンのBLE(Bluetooth Low Energy)と会場に多数設置されたBLEビーコン発信機を使うことで実現されていた。ヒートマップにより混雑度が分かることで、人気の展示や空いているエリアがわかり、来場者が見て回る場所や順番を決めるのに役に立っていた。

スマートスタジアムの実現

スポーツイベントでは、会場内でリアルタイムに試合を観戦し、選手を応援できるなどの一体感のある興奮が得られることが大きな利点だ。しかし最近は、テレビで観戦する方が会場にいるよりもリッチなコンテンツを楽しめるようになってきている。例えば、選手をアップで見られたり、選手に関する様々な付加情報も提供されている。コンテンツを魅力あるものにするために、人手をかけて作り込みが行われている。

会場にいる観客が情報量が少ないコンテンツしか得られないという課題に対して、高速大容量の5GやWiFiを用いた通信機能や、VR/AR機能を生かしたスマートスタジアムと呼ばれる仕組みが実現、提供され始めている。例えば、ラグビーワールドカップ2019日本大会では、スタジアム内やライブビューイング会場で5Gを活用したマルチアングル視聴を提供した。サッカーでも、座席に設置された端末に複数カメラで撮影した視点の切替や選手の情報の提示などを実現している。大容量映像を会場内の数万人の観客に送る利用シーンは、5Gの有望なユースケースとなっている。

今後提供される東京オリンピックの公式アプリには、現場での観戦用にアスリートの過去の記録を合わせて表示する機能、マルチアングルや自由視点でリプレイ視聴できるVR/AR機能、多言語対応の音声認識通訳機能、などの搭載が期待される。

アーティストのライブにも

音楽の世界で定額制のサブスクリプションが普及しつつある中、アーティストもレコード会社も、音楽コンテンツ販売からライブ活動での売上にビジネスの場をシフトしつつある。実際に、日本レコード協会がまとめている2018年のデータでは、音楽ソフトの販売が2,403億円、音楽配信が645億円で、音楽コンテンツ販売は合計3,048億円であった。一方、2018年のライブ・コンサートの売上は約3,448億円となっており、音楽コンテンツの売上よりも、ライブ・コンサートの売上が上回るようになっている。

関係者にとっても、ライブでの売上をいかに増やすかが重要になっている。大きな会場でたくさんの人を動員する戦略だけではなく、映画館を4K映像によるライブビューイング会場に使ったり、マルチアングルに対応したライブ配信など、ITを活用することでライブの付加価値を高める努力をしている。

リアル重視のコンテンツを体感する場も

このように、イベントを現場と遠隔の両方で楽しむための技術が進展している。VR/AR技術は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)等の表示装置を使って、現場でも遠隔でもリアルな体験を得られるようになってきた。5Gを含む通信技術は、会場内で得られる体験を大きく向上させる仕組みとして開発、提供されている。

こうした技術を活用することで、現地で見るという「リアルの価値」も高まることになり、希少な体験が得られることで消費者を引き付けるだろう。さらにシネコンのような映画館が映画市場を広げたように、パブリックビューイングなどで「リアルな場」の体感を得られる空間を増やすことで、体感を重視したコンテンツを世界中に売ることができるようになるはずだ。コンテンツ提供側も、リアルな場での体感を向上させるために、多数のカメラ映像や様々なセンサのデータを使った、魅力的なコンテンツを作ることが求められる。