空港を安く安全に守りたい

2018年12月ロンドン・ガトウィック空港の滑走路周辺にドローンが複数回侵入し、2日に渡って滑走路が閉鎖され、約1,000便と旅客14万人に影響が出た。ガトウィック空港は、年間旅客約4,000万人、離発着回数約26万回と成田空港と同規模の空港だと思うと、とたんに自分ごととして感じられ恐怖せざるをえない。それは、非常に安価な攻撃が、重大な結果につながっていると感じるからだろう。

この例のみならず、最近安価になった古典的な攻撃手法が、航空交通システムを脅かす可能性が指摘されてきている。

計器着陸装置(ILS)への安価ななりすまし攻撃が重大事故へ

2019年8月に開催されたシンポジウムのある研究によると、航空機が空港に着陸する際に広く一般的に用いられている計器着陸装置(ILS)の発する電波になりすまし、航空機に搭載されている飛行管理装置(FMS)を騙すことが可能だという。

ILSとは、滑走路端から指向性電波を出し、航空機のFMSに適切な着陸コースを知らせることで、視界が悪いときでも安全に空港に着陸できるようにするための装置である。この装置により、視界が悪いときでも航空機は着陸することができる。天気が悪くても安心して航空便を利用できるのは、この装置のおかげだと言っても過言ではない。

しかし、用いられている電波は暗号化も符号化もなされておらず、使用している周波数は広く知られている。このため、安価な装置でも強力な電波が出せるようになった昨今、簡単になりすましが可能だというのだ。誤った着陸コースが示されると、FMSはそのコースに乗るために機体を制御しはじめる。誤ったコースに沿って進入を継続すれば、重大事故につながってしまう。

この攻撃にはパイロットも騙されてしまう可能性が高い

前述の研究結果にも示されているが、パイロットは計器飛行中は計器の情報を正として飛行させるように訓練を受けている。別の計器が異常を示している場合でない限り、ILS電波がなりすましを受けているとは思わず飛行させることもありえないことではない。

たとえ何かがおかしいと気づいたパイロットがいたとしても、計器に示されている情報を覆すべきだという判断には、大きな心理的プレッシャーがかかる。プレッシャーの有無を別にしたとしても、着陸時のイレギュラーな判断はヒューマンエラーが生じることもある。

安価な攻撃には安価に対策を講じたい

ドローン攻撃もILSなりすまし攻撃も、とても安価だが甚大な被害をもたらしてしまう。重要インフラである空港では、対策を取らないわけには行かないのが実情だ。

ドローン対策としては、制御電波のホッピングパターンを走査して制御を乗っ取る仕組みが有効とされている。しかし、ドローンの機体メーカーが予め地理的に侵入できないように、ジオフェンス機能をもたせる方法がより安価だ。空港周辺でドローンを飛行させることの危なさを、我々が理解するだけならば、最も安価になる。

一方で、航空機の航法電波は、安価な攻撃が普及する前に、符号化された衛星電波などを用いた仕組みに改めていく必要があるが、こうした対策もやはり高価だ。これは、航空関連の限られた製造者が研究や改修を行っているということにも遠因があるだろう。空港で開発検証できる環境と、多数の企業の参入が最も安い対策になるはずだ。