愛する家族を困らせないためのデジタル終活

こんな話をすると縁起が悪いと思われるかも知れないが、老親を見て我が身を振り返る良い機会でもあるので少々お付き合い願いたい。

誰もが通る道なのに山ほどの課題あり

つい先ごろ、2019年7月1日に改正相続法が施行され、相続手続きが完了するまで銀行口座から預金が一切引き出せなくなるなどのこれまで不便であった点が、いくつか解消された。また、それに先立って、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、成年後見制度の利用促進が図られようとしている。

しかし、親の“おカネ”が使えない!? – NHK クローズアップ現代+同番組取材後の記事でも取り上げられたように、例えば親が認知症になってしまうと介護のための費用であっても親の銀行口座から引き出すことができないなど、未解決の課題も多く残されているようだ。

ただでさえ対応が難しいところ、デジタル技術を高度に使いこなしてきた人たちの高齢化によって、これまでには無かった新たな課題が生じており、それらへの備えも迫られている。そうした備えの一つがデジタル終活である。「な~んだ、そんなこと」という印象を持たれるかも知れないが、放置すると怖いことになるかも知れない。

何もせずに放置すると・・・

もし、故人となられた方が暗号資産(仮想通貨)を持っており、かつ、残された家族がその事を知らず、暗号資産を含めないまま相続税の手続きがなされてしまうと、後日、追加の税金を課されるといった事態が起こるかも知れない。

これに関しては、すでに国会での委員会質疑もなされているようであり、たとえ故人の設定したパスワードが不明な暗号資産であっても、相続人が相続税を支払うことになるとの見解が示されている。せっかく残される家族のために蓄えたはずの財産が、負の遺産ともなりかねない。

また、ネット上での取引、例えばFX取引や先物取引などを故人が行っていた場合には、本人の死亡により取引が行われずそのまま放置されることになり、運が悪ければ、損失を被ることにもなりかねない。

こうした悲しい出来事が起きないように、暗号資産やネット取引などについて、あらかじめ家族に認証情報を伝えておくなり、あるいはいざという時のために記録を残しておくなりする必要がありそうだ。

自分で簡単にできる備え

万が一に備えて考えておくべき様々なケースが他にもある。ここでは、そうしたケースの中から、いくつかご紹介したい。

  • 自宅内のITシステム
  • 多くの家庭で、自宅内のLANや家族用のファイルサーバが整備されていると思う。それらのネットワーク機器やサーバの管理者権限を持ち、バックアップなどの管理をしている(できる)のが一人だけだとすると、万が一の際に家族がファイルを取り出せなくなったりして困らないだろうか。

  • 回線契約、ISP契約、有料TV受信契約など
  • 最近では、月次の支払い通知などが全てメールやWebでのお知らせとなり、郵送での通知は一切ないというケースも多い。契約を引き継ごうにも契約相手方が分からず、料金未納で繋がらなくなった宅内の回線終端装置やスマホ、一部の放送が映らなくなったテレビやBDレコーダを見て呆然としている家族の顔が目に浮かぶ。

  • クラウド
  • 最近では、家庭内に設置するサーバではなく、クラウドを利用しているケースも相当に多いと思う。いつのまにか料金未納となり、クラウドサービスを強制的に解約されてしまうと、家族の大切なデータが消えてしまわないかと心配である。

  • 航空会社やネット通販等のポイント
  • まぁ、これはいざとなれば、諦めることになるかも知れないが、どこにポイントが貯まっているのか、せめてサイトだけでも分かれば救済できるかも知れない。しかし、サイトすら分からなければ、もはや手当のしようがないだろう。

よくよく考えれば、他にもいろいろ困った事が起こるかもしれない。そうした懸念に備えるため、元気なうちにデジタル・エンディングノートを書き始めることが必要かも知れない。

ただし、そのノートは、たとえ自分がいなくても家族なら読むことができるようにしておくことを忘れずにおこう。大規模災害発生時の災害復旧マニュアルや事業継続マニュアルは、ITシステムの中ではなく、印刷して物理的にアクセスできるように備えておかなければならないのと同様に、である。

救済策はあるのか?

すべての場合を網羅することはできないが、いくつかの救済策を本稿の末尾にご紹介した。なお、最終的にはそれぞれの問合せ窓口に確認頂きたい。

わたしのデジタル終活

早いもので、最初の記事を書いてからすでに20年近くの時が過ぎてしまった。そろそろフレッシュな頭を持った皆さんにバトンを渡したく、本稿をもって私のTAKE IT EASY 終活としたい。一度でも記事をお読みいただいた方、これまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。