5G時代のユニバーサルサービス

2019年4月10日に、総務省は「5G」電波の割り当てを決定し、発表した。電波の割り当ては、各社の申請内容を審査基準に照らし合わせて評価し、評価点数の高い順に帯域を割り当てる方法により行われた。

5G導入に向けた周波数割り当ての基本的考え方には、人口数カバレッジに替えて地域カバレッジを重視するユニバーサルサービスに近い概念が導入された。そこで、今回は5G時代のユニバーサルサービス制度について考えてみたい。

日本におけるユニバーサルサービス制度

ユニバーサルサービス制度というと、日本では、電話料金明細に含まれる「ユニバーサルサービス料」としてよく知られている。もっとも、ユニバーサルサービスという概念は、通信分野にとどまらず、電力、郵便などの公益事業(社会的に必要なサービス)において「地域による分け隔て」のないサービスの提供義務を強調して用いられることが多い。

表 日本におけるユニバーサルサービスの現状

  通信 郵便 放送 電力
供給主体 日本電信電話
東日本電信電話

西日本電信電話
日本郵政 日本放送協会 一般電気事業者

該当
サービス

・加入電話
・公衆電話
・緊急通報

・郵便
・郵便貯金
・簡易保険

・ラジオ放送(AM・FM)
・テレビ放送(地上波・衛星)

・規制分野(低圧受電)の供給義務
・自由化分野(特別高圧受電、高圧受電)の最終供給義務

維持費用
負担制度

ユニバーサル
サービス制度

なし

なし

なし

費用負担者

・一定の条件を満たす電気通信事業者
・利用者はユニバーサルサービス料として最終負担

・事業者の内部補助

・事業者の内部補助(実質的には受信料制度に依拠)

・事業者の内部補助

出所)下村仁士「ユニバーサルサービス概念からの交通権思想へのアプローチ」を基に再作成。

 

近年、公共サービスの民営化や規制緩和の動き、地域過疎化といった社会問題の発生とともに、ユニバーサルサービスの範囲や制度設計の見直しに関する議論が行われている。見直すべきとの意見もあるものの、従来、ユニバーサルサービスの構成要件は次のように説明されてきた。

  1. 国民生活に不可欠なサービスであるという特性(essentiality)
  2. 誰もが利用可能な料金で利用できるという特性(affordability)
  3. 地域間格差なくどこでも利用可能であるという特性(availability)

5Gが生活に不可欠なサービスになる日へ

移動通信サービス(携帯電話サービス)の次世代技術である5Gは、高速通信技術としてばかりでなく、あらゆるモノがインターネットに繋がる「IoT時代」を支える基幹技術の一つとしても、大きな期待と注目を集めている。近い将来、5Gは、私たちの生活に欠かせない存在となるはずである。

LTE(4G)までの移動通信技術は、携帯電話などの「通信端末」による利用が中心だった。これに対し、超高速・多数同時接続・超低遅延という特徴を有する5Gは、道路交通や農業、建築、医療、防災・減災など、様々な領域での応用が予想されている。その中に特に公益性の高い医療分野を取り上げて考えてみよう。

少子高齢化や社会の高度分業化の波は医療にも押しよせており、都市部には各分野の専門医が集まる一方で、地方では医師不足や医療機関の偏在が生じている。地方では、総合病院があっても医師不足で専門科の診療日が限られていたり、かといって、都市部の病院へ出かけるとなると丸一日かかってしまったりすることも珍しくない。

5Gの実用化により、移動通信サービスによる大容量かつ高速な通信が実現すれば、高精度画像・動画の送受信によって、病院にいる医師が対面での診察と同じように、離れたところにいる患者を診察することが可能になる。専門科をもつ病院がない地域でも、手軽に専門医の診察を受けることができるようになるだろう。専門医へのアクセスが容易になれば、早期の受診・治療が促進され、結果として本人の痛みを軽減でき、トータルの医療費も節減できることが期待される。また、単なる診察にとどまらず、超低遅延性を有する5Gは、遠隔手術の実用化にも貢献するはずである。

5Gを含める「通信インフラ」全般は、現状の携帯電話サービスを超えたファンダメンタルな社会インフラになり、「国民生活に不可欠なサービスであるという特性」に該当しうると考えられる。

近未来のユニバーサルサービス

今後、社会変革につながる新しい技術は、5G以外にも現れるだろう。それに合わせて、ユニバーサルサービス制度の見直し・多様化も検討すべきではないだろうか。

たとえば、買い物弱者という社会問題を念頭に置いて、物流をユニバーサルサービスとして提供することが考えられる。この場合、車が走る道路を整備するだけでなく、ドローンを利用した配送もサービスの提供方法として認める余地があろう。

旧来のユニバーサルサービスは、単一事業者によって担われていたが、今後は複数事業者によって担われるのが当たり前になるはずである。たとえば、昔は病院・診療所という閉じた空間で提供されていた医療サービスは、通信・配送・運輸などの手段が発達し、遠隔医療が実現されることによって、漏れなく各地域の人々に行き届くことになる。

最低限の手段のみをユニバーサルサービスの提供方法として定めるのではなく、ユニバーサルサービスの目的を達成できる様々な手段を相互補完的に用いることも認められてよいだろう。

 

参考資料