その踏切事故、本当に防げなかったのか

列車の踏切事故が後を絶たない。鉄道会社、関連機器メーカーをはじめ、各研究機関において、悲惨な事故を未然に防ぐために、多くの研究や技術開発が進められている。本稿では「踏切」という空間への対策について、少し別の角度から想像を膨らませてみたい。

日本は踏切大国

踏切事故をゼロにする究極の方法は、踏切をゼロにすることだ。しかし、踏切道改良促進法の施行後50年で立体交差化や統廃合が進んだ結果、踏切数は半減したものの、日本にはまだ全国で33,332箇所の踏切がある。海外の主要都市と比較すると、東京23区620箇所に対して、パリは7箇所(90倍)、ニューヨークは48箇所(13倍)であり、日本の踏切数は群を抜いて多い。これらの踏切を高架化、地中化するには巨額の費用と期間が必要になるため限界がある。また、地方の単線まで大規模工事するかといえば、それも現実的には無謀な考えだ。踏切ゼロ化は長期恒常策として進展を願う一方、年間約250件、死者数約100人前後、3日に1人が尊い命を落とすペースで発生し続ける直近の踏切事故を減らすには何ができるのか。

完全自動制御の実現は課題が多い

線路内で異常が起きた場合、異常に気付いた人が警報機に設置された非常ボタンを押して運転士に知らせる、あるいは運転士自身の目で気づくのいずれかを契機として、運転士がブレーキを引くのが通常の策だ。この2つには人間の“咄嗟の”判断が介在していて、最悪の場合、気づいても間に合わないという結果につながってしまう。 踏切監視技術等の研究は各所で進められており、光、超音波、レーダーによる検知装置の実用化、監視画像認識の実証実験など、取り組みは盛んだ。一方で、踏切空間への異物侵入を察知し、人間の判断よりも早く列車を制御し、未然に踏切事故を防ぐまでのプロセスを完全制御するには、列車の利便性と人命救済というクリティカルな側面を同時に考える必要があり、実現に向けて課題が多い。

踏切事故の原因No.1は直前横断

ここで、監視とは別の角度から想像してみたい。2016年の東洋経済新報社調べによれば、「踏切事故のうち、列車と衝突したのは自動車が44.8%、歩行者が36.7%となっており、原因では直前横断が47.2%と最も多い傾向」とある。また、踏切道種別事故発生件数を比較すると、遮断機が無い第4種踏切かと思いきや、絶対数では設置件数が多い第1種踏切が圧倒的である。この直前横断を何とかする方法はないか。

無理な横断を食い止める

無理な横断が絶えない根本原因の一つに、列車の過密な運行間隔が考えられる。点灯中の進行方向矢印を見ながら、往路の電車がやっと通過し終わるのを待っていた時、復路側の矢印が点灯すると、やはりイライラするものだ。ここで渡らないと長時間待たされるのが嫌で、無理に横断してしまう。列車本数を減らすことが難しいならば、横断歩道で次に開く時間を予測して表示する等、イライラを抑える工夫はありそうだ。 また、遮断機が閉じていながら、強引にいけば渡れてしまう踏切の構造にも工夫の余地があるのではないか。近年、駅に設置が進んでいるホームドアの考え方を応用して、乗り越えられない高さのドアで物理的に閉鎖してしまう考え方だ。そうすれば、自分なら大丈夫だ、渡ってしまおうという油断に対しても、前方が渋滞中にもかかわらず強引に入り込む自動車に対しても、改善が見込まれそうだ。もし閉じ込められてしまった場合は、ドアの内側からならば簡単に開く作りにしておけばよい。ただし当然ながら、この実現には莫大な費用が必要になる。ホームドアの例に倣って、通行量が特に多い場所に限定する等、優先順位をつけて考える必要があると思われる。 また、自動車の侵入も大きな課題であるが、自動車の自動ブレーキが有効ではないかと考える。自動ブレーキは、カメラ、ミリ波レーダー、赤外線レーザー、レーザーレーダーの組み合わせで前方の障害物との衝突を予測し、警報と制動制御を実行する装置で構成されている。一方、踏切は前方に明確な障害物がない。一案として、スバル社「アイサイト」で採用されている複眼レンズの技術を取り入れてカメラの自動認識性能を上げ、踏切警報機の信号が点滅している状態等を「障害物」と認識させることで、踏切に特化した誤侵入防止が実現できるのではないかと考える。

線路に取り残さない

無理な横断をしたわけではないのに、高齢者が渡り切れないケースは悲しい。これを防ぐには、大胆ではあるが、強制的に外に運んでしまうアイデアはどうか。例えば、20m以上の横断距離の長い踏切に、レール付きの移動用パレットを併設する。エレベーターと同じ操作感で使うが、渡り切れる時間が確保されないときは「進む」ボタンを無効にする等して安全性を確保する。一見大胆なアイデアであっても、命を救う目的のために真剣に検討する価値はあると思われる。 一人でも多くの貴重な命を救い、1件でも悲惨な事故を減らしたい一心である。