デジタル化対応組織の取組
デジタルトランスフォーメーション対応を標榜して、従来からのシステム組織とは独立して専従組織(以下、デジタル化対応組織)を作る企業が増えている。よりユーザに近いところで、クイックに、徐々にシステムを整備しながら強化改善を繰り返していくスタイルもかなり浸透してきている(アジャイルという言葉で表現していることも多い)。この新しいデジタル化対応組織には、多くの場合、ビジネスや現業における企画に長けたメンバーと、アジャイル開発やAI、ビッグデータ分析といった専門性を持つ要員が一緒に配置されることが多い。
デジタル化対応組織の取組の一つは、顧客接点を誘導するなどにより、新しいシステム上でデータを発生させて活用することである。この場合は、現行システムとの機能やチャネルの棲み分けをうまく行う必要がある。新たな顧客接点で得た情報や取引結果は、全社の会計管理や顧客管理システムを担う既存の情報システムと連携する必要がある。
もう一つの取組は、現行システムや現業の中で生まれる大量のデータも含めて活用して、自らの顧客理解を深めたり、顧客にこれまでの取引とは異なる新たな付加価値を提供することである。こちらの取組では、現行システムや場合によってはシステム管理されていないデータ、項目名や鮮度の違うデータを結合して活用することが求められる。
いずれの場合においても、現行システム側との連携・調整は必須であり、その活動との調整により取組自体が制約を受けることもある。
現行システム組織の取組
一方で、従来からのシステム組織(以下、現行システム組織)は、販売・生産・物流等の計画と実行そのものなどの基幹業務を支え、より高信頼性を求められるシステムを担当している。現行システム組織に対しては、品質を担保した上でのコスト適正化の要求が強くなっている。様々な新技術(自動化や仮想化技術は今でも進化・浸透を続けている)を適用したり、システムの統合を進めたりしてシステムの効率運営を追求している。
多くの企業で、品質・コスト・効率を目標に掲げ、現行システム組織の人数を年々減少させながら、更改・改修の案件に取り組むことで手一杯となっている状況がよく見られる。こういった状況のもとで、デジタル化対応組織との調整、各種データ連携などの要求への対応を行いながら、企業システム全体の効率運営を検討している実態がある。
デジタル化対応において現行システム組織に求められる役割
最初の項で述べたとおり、デジタル化対応組織で作られる仕組みが独立完結することはほとんどない。デジタル化対応組織で作成するシステムと現行システムとの機能分担、棲み分けの整理を行う必要があるほか、現行システムが主として管理しているマスタ情報(顧客など)や商品に関する情報などを参照し、システムに埋め込まれたルール、基準を使えるようにしたり、さまざまなシステムに溜め込まれたデータを、デジタル化対応組織で使える形にして渡すなど、現行システム組織でも対応しなくてはいけない事項は多い。
その中でも、特に直面しやすい課題として、以下のようなものがあげられる。
- 各システムの目的別に溜め込まれているデータをどう紐付けるかは、難しい問題である。多くの場合、使える形に統合するには分析やデータ利用の目的から、対象データ項目、範囲、結合方法などを設計し直して、データを取り出す必要が発生し、デジタル化対応組織で実現したいことがなかなか実現できない。従来以上に幅広いデータの結合が求められるため、問題は根深い。特に、顧客データを統合して使える形にすることが課題となることが多い。
- データ項目の意味、鮮度が異なるデータが散在し、分析や利用の目的に合致するのかどうかの見極めには、各システム担当や場合によっては業務担当者に確認をしないと使えない。
- 現行システム組織は年間で予定した案件を効率的に実行するように組織設計されているため、デジタル化組織などから頻度高く、迅速な対応が必要な要請があると、通常業務の効率性に影響したり、対応スピードが充分でないといった事態になることがある。
これらの事態に対応するためにも、デジタル化対応組織と現行システム組織の双方で以下のような対応を行っていくことをおすすめしたい。
- 全体システム設計の維持、データ管理の態勢を強化する。特に、データ活用上の大きな阻害要因となりがちな顧客等のデータの統合については、できる限りしっかりと全体設計をしておくことが重要である。
- 顧客等のデータは、目的、鮮度などに応じて、データのきれいな統合が難しいケースがある。データ分析結果を用いた本格的なシステムを作る前に、データアナリストがデータ結合などの前処理をクイックに実施でき、分析の企画・実践を迅速化できるよう、簡便にデータを統合する仕組み・ツールを用意することも有効である。
- 現行システム側の予算、体制を現行システム維持の観点でのみ考えるのではなく、現行システム組織にも対応リソースを残しておく、特にシステム全体がわかる人材(アーキテクチャ、データ配置、機能配置)、つなぎの部分の技術がわかるようにしておく、ことが重要である。
デジタル化対応を加速・推進するために、デジタル化対応組織を現行システム組織から切り離してスタートする事例が多いものの、上記のような対応を考えると、将来的にはデジタル化対応組織と現行システム組織をオーバーラップさせていくことも含めて、検討が必要な時期に来ているのではないだろうか。
本文中のリンク・関連リンク:
- デジタル化対応組織:平成30年版 情報通信白書 第一部 第4節 「ICTのポテンシャルを引き出す組織改革」(総務省)(2019年3月21日閲覧)
- 迅速なデータ統合に有効なツールの例:三菱総合研究所、シマントとデータ分析サービスの開発検討で合意