そのシャツ、“真っ白”ですか?

洗剤の話ではない。高度に効率化・グローバル化したサプライチェーンにおいて、自分が手にしている商品の原材料が、どこの、どのような企業につくられているのか、われわれ消費者が正確に把握することは難しい。

あなたが着ているそのシャツも、元をたどればいわゆるブラック企業、児童労働や環境破壊をしている企業、反社会的勢力が関与しているかもしれない。

武装勢力の資金源になるダイヤモンド、レアメタル

『ブラッド・ダイヤモンド』という映画をご存知だろうか。アフリカの内戦において、武装勢力の資金調達のため不法に取引きされる血塗られたダイヤモンド、「紛争ダイヤモンド」を題材とした映画である。ダイヤモンドなど,国際市場において高値で取引される資源は産出国にとって貴重な外貨獲得の手段になる。一方、武装勢力がこれらの鉱物資源を罪のない人々に採掘させ、武器購入の資金源とすることによって内戦の深刻化、長期化を招いている。

スマートフォンなどに使われているレアメタルも同様であり、タンタルなどのレアメタルがコンゴ民主共和国における武装勢力の資金源となり、内戦を長期化させている一因と言われれている。

ブロックチェーンで解決を試みるスタートアップ

犯罪組織や武装勢力の資金源を断つには取引をしない、「買わない」ことがもっとも直接的だ。ただし複数の卸売り業者・加工業者を経てしまうと、この商品がどこから来たのか完全にトレースすることは容易ではない。 近年、改ざんや不正が極めて困難というブロックチェーン技術の特徴を利用して商品取引をトレースしようという動きがある。

イギリスのEverledgerはブロックチェーンによる分散台帳によってダイヤモンドのあらゆる取引を記録し、透明性を高めることを目指している。個々のダイヤモンドに個別のIDを付与し、その情報をブロックチェーンに格納している。

コンゴ民主共和国と並んで、タンタルの主要な産出国であるルワンダの鉱業協会はサプライチェーンの追跡システムを開発するCirculorと提携し、ブロックチェーンによるタンタル取引の追跡をはじめている。

単価の低い商品はネットワーク解析で“ハブ”を見つける

ただし、これらのようなグローバルなブロックチェーンシステムの構築・維持には大きなコストがかかる。ダイヤモンドやレアメタルなど、ハイバリュー商品ならばそのコストもペイするだろうが、他の多くの商品では難しいだろう。

完全な透明性を確保する以外に、企業間取引をネットワークとして捉えて、ネットワーク解析によって“悪い企業”と“良い企業”の橋渡しをしている部分を特定するという研究がおこなわれている。国立情報学研究所 水野貴之准教授の研究によると、“悪い企業”はコミュニティを形成し、内部で取引を繰り返した後、コミュニティ外の少数企業のハブを介して、“良い企業”側のコミュニティに商品を流していることが示唆されている。

世界は満遍なくつながっているわけではなく、少ないハブによって効率的に各コミュニティ同士がつながっているのだ。それらのハブを特定し、“良い企業”がハブとの取引を中止することによって“悪い企業”への資金流入を効率的に断つことができる。

市場原理を用いた健全化

ハブを特定して、監視や規制を強化してもイタチゴッコは抜け出せない。“良い企業”側からそれらの企業を避け、明確に問題がないことを確認できた企業とのみ取引をしていく活動が必要だろう。

CSR的な側面だけでなく、”良い企業”にもメリットはある。各企業が取引先を公開し、サプライチェーンが透明化されれば、逆に“悪い(怪しい)企業”が投資家にも特定され、投資を回避される。いわゆるESG投資における指標の1つとしてトレーサビリティが重要視されるようになるだろう。

消費者にとっても、自分の購入した代金が正しく世のために使われていると確信できることは、新品の真っ白なシャツに袖を通すくらい、清々しいものではないだろうか。