「デジタル人材」は技術よりもマインドとフットワーク

AIの流行と相まってデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えているが、うまく進まないという声も聴く。なぜなのか?

「デジタルトランスフォーメーション」は「(デジタル技術を用いた)業務改革」

まずはそもそも「デジタルトランスフォーメーション」の定義が曖昧であり、何をすべきかわかりにくい。たとえば、Wikipediaの「デジタルトランスフォーメーション」の項を参照すると、スウェーデンのストルターマン教授の定義に始まり、IDC Japanやガートナー等、ビジネス面に注目した定義が並ぶ。

これらの定義を見ると、ポイントは大きく以下の2点と言えそうだ。

  • ビジネスやサービス全体を現状に囚われずに刷新すること
  • それに(最新の)デジタル技術を活用すること

DXは必ずしもイノベーションである必要はない。一方で、ビジネスの上流から下流まで、すなわち、ビジネス戦略から、そのビジネスにおける付加価値、顧客接点、具体的な業務プロセスやオペレーションまでゼロベースで見直しを検討する。また、検討結果の実現に向けてシステム投資を行ったり、場合によっては組織文化や人事制度等を変革する必要もある。

このようにDXにおいては、デジタル技術を扱うシステム部門だけでなく業務部門やバックオフィスなど全社的な取り組みが求められるため、「トップのコミットメント」が重要だとされている。経済産業省が取りまとめた「DX推進ガイドライン」においても「経営のあり方・仕組み」が一番手として挙げられている。具体的なアクションとして、社長直轄の「デジタル企画部」を組成したり、経営企画部に「デジタル戦略室」を設置したり、といった動きが見られる。

「デジタル人材不足」が騒がれる

しかし、トップダウンで取り組んでも解消できないのは、それを遂行する人材の不足だ。先進的に取り組んでいる企業でも、「いまどきのデジタル技術に詳しいリーダーシップのある人」がキーマンとなって推進していることが多い。結果として、組織的に取り組めない、キーマンにすべてが集中してしまってスケールしない、ノウハウが属人的、といった課題に直面している。

また、これまでユーザ企業では開発を外部委託することが一般的だったので、アジャイル開発に向けて開発を内製化しようにも、人材がいない、獲得できないという課題もある。

先のガイドラインでも人材確保の重要性を説いているが、このような状況が冒頭の「うまく進まない」という声につながっているのでないかと思う。

本当にデジタル人材が不足しているのか?

では、DXに必要な人材はどんな人材だろうか。AI、データサイエンス、ロボティクス、ブロックチェーン、等々、新たなデジタル技術は続々と登場している。これらの先端デジタル技術に詳しく、プロトタイプを次々に作れる人だろうか。

「DX」と聞くとどうしてもこのようなデジタル技術にばかり目が行きがちだが、実は、ユーザ企業のDX担当者はこれらの技術に必要以上に詳しい必要はない。社内にはシステム部があり、社外にはスタートアップから大手ベンダー、コンサルティング会社までたくさんの外部リソースがある。彼らと積極的にコミュニケーションを取ることで、技術面のパートナーを見つけたり、将来的に技術がどう進化し、業務が変わる可能性があるのかという想像力が養われる。その想像力を発揮して、自身の業務にどのように技術が活用できる・できる見込みか、ということを自分なりに考え、示していくことが、情報システム部の協力や外部リソースの目利きにつながる。

重要なのは「DX後」を描く力

となると、デジタル人材に必要なのは業務・サービスの変革を検討し、DX後の業務・サービスを具体的に描く力だ。ここでも外部の力を借りることはできるが、「やりたいこと(Will)」に基づかなければ、担当者としても会社としてもモチベーションにつながらず、「絵に描いた餅」になってしまう。

また、DXはAIと同様、多くの場合PoCや実証実験から始めることになる。その際、社内外に明確に「やりたいこと」を提示すれば、社内の関係者は納得して動くことができるし、外部企業も現実的かつベストな提案が可能となる。また、PoCを「パートナーの技術力の評価」ではなく、「自身の目指す姿(やりたいこと)の正しさを評価するため」と捉えると、PoCの実施・評価から実ビジネスへの適用までをスムーズにつなげやすくなる。

以上のように考えると、「デジタル人材」は「優秀な人」かもしれないが、特殊な人材ではないだろう。現在の業務・サービスを理解した上で、「ビジネスを良くしたい」、「顧客目線で考えたい」、というマインドを持って企画・立案すること、そして、いろいろな関係者を巻き込んだり、情報収集するフットワークの軽さがあることが望まれる。

流行している技術や方法論を採用しなければ、と惑わされず、自分たちの会社なりにDXに取り組んではいかがだろうか。