ヒトを運ぶMaaS、モノを運ぶMaaS、そして運ばないMaaS

ガソリン自動車が発明されて約130年。ドライバーが運転するという本質は変わらなかった。それが自動運転技術で大変革を迎えようとしている。単に自動車業界、輸送業界にとどまらず、全産業に大きなインパクトを与えるはずだ。

シェアから自動運転に進むMaaS

MaaS(Mobility as a Service)、という言葉をよく耳にするようになった。直訳すれば、サービス化された移動である。移動する機械(マイカー)の所有に対比して、移動サービス(MaaS)と呼ばれる。

もっとも、既に多くの人はサービスを利用している。バス、タクシー、レンタカー、宅配便、すべて移動サービスである。

ではなぜ、MaaSなどと改めて強調するかといえば、ひとつは「カーシェアリング」が登場したからである。ウーバー(Uber)は、マイカードライバーが短時間でも働ける新たなサービスを産み出した。タイムズカープラスは、多数の時間貸し駐車場を拠点として、どこでも15分単位に簡単に借りられる。圧倒的な利便性で、既存のタクシー業界や自動車販売を脅かすとみられている。

ただし、カーシェアリングはMaaSの萌芽でしかない。本命は自動運転である。ドライバーの人件費が無ければ、価格競争力が飛躍的に向上して、タクシー業界のみならず、バスや鉄道など公共交通まで大きく変える。

ヒトの移動だけではない。宅配や幹線物流など、モノの移動も自動化が進む。分かりやすいところでいえば、ビザなど食事のデリバリが、自動運転で数倍・数十倍に拡大するはずだ。

実際中国では、多くの家庭で毎日食事のデリバリを頼んでいる。これは賃金格差が大きく、安いコストでドライバーを雇えるから。自動運転になれば、日本でも毎日デリバリで済ます家庭が増えるかもしれない。

ヒトもモノも運ばないMaaS

移動には目的があり、移動は手段でしかない場合が多い。だが、移動目的を果たす手段は一つではない。

例えば、クリーニング。今は、クリーニング屋に洗濯物を持参している人がほとんどだ。移動手段は、徒歩であったり、自転車であったり、買い物ついでにマイカーで運んでいる人もいるだろう。

これが自動運転時代になると、3つのパターンが考えられる。

 ①ヒトの自動移動:クリーニング屋に自動運転車に乗って行く
 ②モノの自動移動:クリーニング屋の自動配送車が洗濯物を引き取る
 ③自動機械の利用:自宅でクリーニングマシンで洗う

どれも自動化の未来像である。食事や散髪も自動化の影響を受ける。

 食事なら、①外食、②デリバリ、③自動調理機。
 散髪なら、①床屋、②訪問散髪、③散髪マシン。

クリーニングや食事、散髪といったサービスを受けるのではなく、逆に自分が仕事しに行くための移動ならば、

 ①自動運転車で通勤
 ②仕事が自動配送車で宅配(紙図面CAD入力、領収書仕分け等)
 ③会社へリモートアクセスやテレビ会議でテレワーク

ヒトの移動だけでなく、モノの移動、そもそも移動しない、という発想が大事でなのある。ヒトもモノも運ばないMaaS、というべきものだ。

特にMaaSインパクトが大きいのは街の店舗

MaaSによってヒトやモノの移動の利便性が上がると、自動車・輸送以外の業界にも大きなインパクトがある。特に街々に小規模店舗を構える業界は特に影響が大きい。先に述べた、クリーニング、床屋・美容院、飲食店などである。

「店に来るべき特別な理由」を持たなければMaaSに勝てない。そんな特別な店は多くないので、市場のボリュームゾーンはいずれMaaS化する。

物販の店は多くが商店街から消えた。八百屋、魚屋、肉屋、豆腐屋、洋品店、金物屋、時計・宝飾店など、あまり見かけなくなった。商店街に、残っているのは、飲食店を中心に、美容院、クリーニングなど、サービス型の店ばかり。一方、新たに登場したのは、携帯ショップ、不動産屋、保険代理店、カイロプラクティックなど、来店頻度は低いがじっくり対面サービスする店である。

1980年代に始まる大量輸送と保存技術の物流革命によって、物販の店はスーパーとコンビニにとって代わられた。今度はサービス型の店をMaaSが狙っている。

しかし、会社へのリモートアクセスやテレワークが進めば、通勤が減少し、平日の人の流れも大きく変わる。ターミナル駅やショッピングモールに立ち寄るよりも、自宅近くの繁華街の方がアクセスしやすい場面もでてくる。

利便性や価格だけではない来店価値を高められれば、やっぱり店に行きたいという人は一定数いるはずである。来店価値とは、品質はもちろん、店の居心地の良さや、接客のやりとりの嬉しさだったりする。特に、家族や友人と一緒にいたい場合はそうだろう。

ここに商店街の新たな賑わいの可能性を感じている。