これからのアニメ、外から見るか?中から見るか?

ご存知の通り、日本のアニメーションは国内のみならず世界で認知されている。近年ではクールジャパン戦略の中心に据えられるなど、日本の海外戦略や経済成長の一翼を担う役割を期待されている。一方で、米国を中心とする海外アニメーション作品を勢いは増しており、競争の激化が見て取れる。今回はその背景にある制作技術の革新を少し覗いてみたい。

2Dアニメ作成文化と3DCG制作技術が融合しはじめている

日本のアニメは2D、海外アニメは3DCGというイメージを持っている方は多いのではないだろうか。事実、それぞれの文化的背景等から2D、3DCGと棲み分けて産業発展してきたように見える。

手書きによるアナログな作成を背景にもつ日本のアニメーション制作は、デジタルデータによる制作を中心とする3DCGとは相容れないように思えたが、今では場面によって2D、3DCGを切り替えるなどの工夫がなされるようになっている。

背景にあるのは、Maya3ds MaxAfter Effectsといった制作ツールの普及だ。コンテンツ作成・管理のノウハウが詰まった米国発のツールに助けられるかたちで、3DCGが用いられるようになっている。さらに近年の作品では、3DCGを2Dアニメの手書き風に表現するセルルックという技術を用いた作品フォトリアルな表現を用いた作品が作られ話題となった。

アナログ制作とデジタル化にまだまだ残る相克を解決すべし

このようにアニメーション制作は、デジタルデータと切っても切れない関係となっている。しかしながら、海外では制作のどの工程でもデジタルデータを中心に据える方法をとっているのに対し、日本では制作工程の中に手作業に頼らざるを得ない部分があり、デジタル制作とアナログ制作が必ずしも効率的でない形で共存しているのが現場の実態のようだ。

この現状については、アニメーション制作環境に関する調査報告書でも触れられており、労働環境や待遇の悪化の一因であるとされている。

なお、同報告書では、2Dと3DCGコンテンツを融合させた作品を扱う時代の制作工程について、具体的なガイドラインを定めている。個々の企業の努力に任せること無く、業界内にノウハウを共有した姿勢には、この問題への危機意識が感じられる。

AIもアニメーション制作の担い手に

さて、このような環境にあるアニメーション制作だが、新たな地殻変動が起きつつある。それはAIによるアニメーション制作支援である。特に敵対的生成ネットワーク(GAN)等を中心としたコンテンツの生成を担うAIは、大きな影響を与える可能性がある。

実際、人物の写真からアニメキャラクターを生成する技術(Yanghua Jin氏事例)や、現実世界の映像から3DCGの仮想空間を生成する技術(NVIDIA)、さらにはリアルな動作モーションをAIで学習し再現させる技術(DeepMimic)など、直近の数年でアニメーション制作者の腕の見せ所だった作る領域へのAI活用事例が出始めている。

これらの技術の現時点での完成度から、アニメーション制作に用いられる日はそう遠くないとみられる。作業量に逼迫される制作現場がクリエイティブな部分に集中できるようになることを期待したい。

VRが新たな主戦場となる日が来る

またVR技術によってアニメーションは、その世界の中から見るものに変わりうる。日本では、いち早く取り組んだSpicyTailsという有志サークルがクラウドファンディングで資金を集め、「狼と香辛料 VR」という作品を2019年に公開予定としている。また、GoogleのSpotlight StoriesなどVRアニメの制作プラットフォームの開発も盛んである。

アニメーション作品の多くはまだ外から見る2Dや3DCGであるものの、VRそのものの普及や開発環境の整備が進めば、たちまちにVRにアニメーション制作の主戦場が移るはずだ。エポックメイキングとなる作品は誰が作るのだろう。

国際競争力を持つと期待される日本アニメだが、来る技術革新の荒波を超えなくてはならない。とはいえ技術の導入意欲はあまり心配していない。これまでも創作を切磋琢磨する文化を背景に技術を洗練してきたからだ。新しい技術であれ、きっと取り入れてくれるだろう。

危惧すべきはより高い技術が求められる制作現場における、欧米と比べ余りに差のある待遇・労働環境だ。明日は良くなると待っていられるほど技術革新のスピードは遅くない。「あしたって、いまさッ!※」なのだ。

※集英社 荒木飛呂彦著「ジョジョの奇妙な冒険」第4巻より