10月11日、ついに築地から豊洲へ市場移転が行われた。市場関係者の混乱等があったとされているものの、一般客公開初日には4万人ほどが訪れたという。今後、世界の“築地”ブランドが“豊洲”ブランドになることを期待し、日本の魚のブランド化について考えてみたい。
日本の水産業は人手不足
日本の水産業はどの様な現状であろうか?
現在、日本の漁獲量は世界第5位の年間約458万トンであるが、第1位の中国が約4,641万トン、第2位のインドネシアが1,876万トンと他国を大きく引き離している。世界的に見ると漁獲量全体は拡大傾向の中、日本は縮小傾向にある。この原因の一つとして、高齢化による人手不足がある。農林水産省の統計によると、年々漁業就業者数は減少しており、平成29年では15.3万人、内65歳以上が5.9万人で約4割を占める。
日本のブランド魚
大間マグロ、関サバ関アジ、明石鯛など日本各地にはブランド化された魚は多くある。ブランド魚の中には1匹ずつ血抜き神経締めなど鮮度を長く維持するための魚の下処理、流通時の品質管理にこだわり付加価値をつけているものもある。ただし、残念なことにブランド化を単なるネーミングや高く売るためのツールとして捉えているのか、偽装事件も起きている。
また、ブランド化の一環として、全国漁業協同組合連合会が主体となっているプライドフィッシュという取組みがある。全国の本当においしい旬の魚を認定し紹介しているのだが、その種類と数には驚くと同時に日本の海の豊かな恵みを感じる。
世界に出る日本の魚
2018年6月タイのバンコク スクンビット・トンローエリアに日本生鮮卸売市場「トンロー日本市場」がオープンした。鮮魚、野菜、果物、牛肉など、日本から獲れたて食材を空輸しており、鮮魚は築地の鮮魚仲卸亀本商店が参加している。世界的な健康志向と日本食ブームもあるが、安心、安全、高品質のイメージがある日本産食材へのニーズも高いのであろう。
おいしい魚は目利きと測定で
魚は肉や野菜に比較し、鮮度が落ちるスピードが速く、個体差による脂乗りなどが異なるため、目利きが重要な要素の一つになる。
しかし、良い魚は中々素人には判断し難い。日本の流通では卸売や仲卸などの魚の目利き職人が、視覚、触覚、嗅覚を駆使し、鮮度が良く美味い魚を見分けている。
なお、鮮度は科学的にK値というもので計測できることが分かっている。活きている魚は筋肉中にアデノシン三リン酸(ATP)を蓄えている。これが死後、アデノシン三リン酸(ATP)→アデノシンニリン酸(ADP)→アデニル酸(AMP)→イノシン酸(IMP)→イノシン(HxR)→ヒポキサンチン(Hx)と分解されていき腐敗が進む。魚種によって異なるが、20%以下が刺身に適するといわれる。
K値〔%〕=(HxR+Hx)/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx)×100
ICTによる目利きと鮮度の見える化
ICTによる目利きや鮮度の見える化は開発されつつある。
- ◇目利き
- 農林水産省・水産庁は2018年度に、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用した魚介類の選別・加工システム開発に乗り出し、20年度までの実用化を目指している。AIが持つ画像処理技術は医療診断などでも実績があり期待されるところだ。なお、嗅覚に関してもセンサーとAIを用いた技術開発も行われており、近い将来実用化されれば強力な武器となろう。
- ◇K値測定
- K値測定も手軽にできる製品が開発されている。大和製衡社から発売されているフィッシュアナライザーという製品は、魚体に電極を当てるだけで、鮮度(K値測定)と脂肪率が測定可能である。
世界における日本魚のブランド確立へ向け
世界的に見ると、日本は工業製品をはじめ安全・安心・高品質というブランドイメージが少なからずある。ただし、魚に限らず多くの食品の場合、高品質という目に見えにくい価値は、消費者の信頼というブランドの元に築かれている。国際的な競争や人材不足の中、日本の魚は今後どの様なブランドを築いていくべきだろうか。
他業を見れば、日本酒作りという職人の技をICTによる徹底した管理でブランド化を実現した旭酒造、人手不足の農業におけるICTへの取り組みに学ぶ所は多くある。
高度な目利き職人の技や、鮮度・おいしさの見える化によるICTを積極的に取り入れ、先に紹介したタイのトンロー日本市場の様に、サプライチェーン全体でのブランド確立し、世界の魚と戦って欲しい。