空気を読むアシスタント

空気を読めなければ日本社会に馴染めない?

我々のコミュニケーションは、非言語的部分に依存しているところが多くある。特に、日本には「空気を読む」という言葉がある。これは「その場の雰囲気から状況を推察する。特に、その場で自分が何をすべきか、すべきでないかや、相手のして欲しいこと、して欲しくないことを憶測して判断する」という意味の言葉である。日本人は明確な表現を避けて会話することも多い。そのため、上手にコミュニケーションを取ることが一層難しいといわれている。日本語がわかっても日本社会になかなか馴染めないと感じる外国人は少なくないが、この「空気を読む」文化が一因であろう。

空気を読むことに苦しむ人々

外国人に限らず、日本人の中でも、空気を読むことができず苦しんでいる人は少なくない。このような悩みを抱いている人たちの多くは、周囲から理解を得にくい状態にある。10人に1人といわれる大人の発達障害も、近年ようやく注目され始めたにすぎない。

また、一般の日本人でも、誰かにその場の雰囲気を解説してほしい場面に出くわした経験があるだろう。例えば、提案書を提出する際に上司の機嫌を読み取りたいサラリーマン、あるいは無言のままに座っている妻の考えを読み取りたい夫。口調や表情から相手の感情を読み取ってくれるアシスタントがいれば、生活はより円滑に進むだろう。

適用が進む「空気を読む」技術

このような非言語的コミュニケーションに注目する研究はたくさんあり、いくつかはすでに商業化されている。例えば、コールセンターなどに音声による感情認識技術を導入し、高い顧客満足度と低い解約率を目指したり就活生の面接練習などに表情を分析する技術を導入し、より科学的・客観的に就活生にアドバイスしたりする事例がある。

またコミュニケーション以外の場面に応用する事例もある。自動車メーカーは運転手の表情を観察し、早期に眠気を検知する機能を売り出している。

ほかにも、受講者の表情を観察して受講者の集中力が足りないときにもう一度呼び掛けるなどの教育への応用、赤ちゃんの機微な表現から体調を推察するなど子育てへの応用、そしてゲーム・エンターテインメント、医療、マーケティングなど、幅広いビジネス分野における応用が期待できる。「空気を読む」技術は、無限の可能性を秘めている。

技術による空気の読みすぎに注意

「空気を読む」技術を活用し、様々な紛争を解決したり、トラブルを取り除いたりすれば、如何に平和な世界になるだろうと想像できる一方、自分の感情が常に検知されたり、一瞬の不機嫌でも周りの注意を引き寄せることになりうると考えたら、少しぞっとする。

やましい感情がなかったとしても、他人に感情を分析されたり、見通されたりすることには薄気味悪さ、あるいは恐怖すら覚える。外国人にとっては固い壁でしかない「空気」は、実は、人々の心を守るクッションなのだろう。

そのため、いつか人間の心を正しく読み取ることができる技術が開発されたとしても、あえて利用場面や精度を制限したほうが人間全体の幸せにつながるのではないだろうか。

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